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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第1章:孤独な犬神 編
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第5話:東京エデンツリー

 狗美くみは大家さんに預けた自身の服を引き取りに大家さんの部屋を訪ねようと和神わがみの部屋を出た。すると、そこには大家さんが立っていた。大家さんは洗濯した狗美の服を届けに来たのである。

「あら、もしかしてもう帰るのかしら?」

「ええ。大家さんにも和神にも大変お世話になりました。」

 狗美は服を受け取り、和神の部屋の脱衣所で着替える。その間、大家さんは例によって和神をからかう。

「昨日の夜中、随分激しかったわねぇ?」

「誤解を招く言い方しないで下さいよ。狗美さんの寝相と寝言がひどかっただけですから。」

 狗美が狼になって暴走して襲ってきた,なんて言っても信じないだろうし、まるでそういう事の比喩みたいに思われかねない為、適当に誤魔化した。

「あの狗美っていうんだ?もう下の名前で呼んでるなんて、ますます怪しいわね。」

「そういえば名字は聞いてないですね。なんていうんだろう?」

「ないよ。」

 着替えを終えた狗美が出てきた。

「名字はない。両親も名字はないと言っていた。あと大家さん、和神はそんなすぐに女を襲うような低俗な男ではない。そう言っていたのはあなたでしょう?」

「ふふ、ホントに仲良しになったのね。」

 クスクス笑う大家さんに呆れる2人。

「だったら、今日は2人でお出かけでもしたら?狗美ちゃん、昨日の今日でまだ本調子でもないでしょ?リハビリ・・・みたいな感じでさ。」

「いいですね。そうしましょう。」

 大家さんの提案を呑む和神に、狗美は戸惑った。

「おい、和神。」

「いいじゃないですか、にんげんと一緒にいた方が王狼院除けにもなりますし、人間ひとの多いところ案内しますよ。」

 和神は小声で説得し、狗美は渋々それを呑んだ。


 東京エデンツリー。“八百万やおよろずの神”にちなんだ高さは800m。世界最大の電波塔である。和神と狗美はここにいた。狗美はエデンツリーを見上げて圧倒されている。

「人間はこんな塔を建てる程になったのか。」

「登ってみましょうか?」

平日の朝とはいえ人数ひとかずが多く、隠れるのにちょうど良い場所であると思ったためここを訪れた。入場料は展望台まで1人3000円、そこから大展望台まで1500円とかなり高めだが、展望台の方が人も多いだろうということと、狗美も登りたそうにしていたため登ることにした。

東京エデンツリー地上500m展望台。やはり地上よりも人は多い。それでも、テレビで見る休日の混雑よりは遥かに空いている。

「丁度いい人数ひとかずですね。」

 という和神の声は既に狗美には届いていなかった。狗美は窓ガラスに直行し、窓際の手摺てすりを握り締めて、外の景色に驚嘆している。

「すごいな・・・。森の“犬神の御神木”より遥かに高い。」

「もっと上もありますけど、行きますか?」

 狗美はまだ上があるのか,という顔で和神を見た後に頷いた。上に行くためのチケットを買いに受付へ向かった時だった。狗美の手首を男が掴んだ。

「人混みにいりゃあ見つからねぇと思ったか?」

 気付けば、周囲を3人の男に囲まれていた。しかし、男たちは狗美が誰かと一緒にいるとは思わなかったようで、和神には無警戒であった。和神はそこを突き、狗美を掴んでいる男の右にいる細身の男を殴りつけた。不意打ちに男は体勢を崩した。残りの2人の男がそれに気を取られている隙に狗美は自分の手首を掴んでいる男の膝を蹴り、逆に曲げた。悶絶し倒れこんだ男に駆け寄るもう1人の男の顔面に回し蹴りを食らわす。狗美が和神の方を見やると、和神が細身の男に攻められている。狗美はすかさず細身の男の顔面に飛び膝蹴りを決め、吹き飛ばした。

挿絵(By みてみん)

「大丈夫か!?和神!」

「はい、問題ないです。」

 狗美は和神の手をいて急ぎエレベーターで地上へ向かい、その後も2人は走り続け、東京エデンツリーを後にした。

「ふぅ…ここまでくれば取り敢えずは大丈夫か。」

 2分程走ったところで2人は立ち止まった。

「そ…です…ね…はぁ・・・はぁ・・・。」

 狗美のペースで走り続けた和神は死にそうなくらい息を切らしていた。ただでさえ漫画家志望の和神は、ここ最近激しい運動をしていないというのに、狗美は和神の手を牽いてエデンツリーからここまで時速40kmで疾走していたのである。これは、世界記録級のスピードである。

 息もえな和神に狗美はすぐに自分のせいだと気付いた。

「すまん・・・必死でつい・・・あやかしの速さで走ってしまった。」

「いいん…ですよ、何度か・・・体が・・・浮きましたが・・・。」

 和神の息が整うのを待ちながら、狗美はさっき襲ってきた輩について説明する。

「さっきの奴らは半妖はんよう、人間と妖のハーフで、王狼院は半妖やつらを人間の次に憎んでいたが、利用することにしたらしいな。金で雇われたのだろうが、失敗したら消される事を彼らは知っているのだろうか?」

 狗美は辺りを見回す。

「近くに次元孔じげんこうがあるのを感じるな。恐らくあそこに見える神社の裏あたりだろう。」

「次元・・・孔?」

「ああ、妖界あやかしかい流界るかいを繋ぐ穴のことだ。私が流界こっちに来たのも次元孔を通った。あの神社は妖界にもある“天之稲荷”だ。次元孔は大抵妖界と流界に共通するものがある所に現れるから、恐らくあそこで間違いないだろう。」

 和神の息が整ったところで、2人は天之稲荷へ向かった。

「ここまでだな。このままではいずれ王狼院の手が及ぶ。私は王狼院とケリをつけてくるよ。」

 狗美が和神の手を離した。


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