第46話:乱-みだれ-
“陽撃”の術者が人間。その事実は人間には想像できないほど裏切った常駐部隊に衝撃を与えていた。本来ならば妖力も持たない人間が1つの『術』を使ったのである。つまりそれは『人間』だと見下していた男が『妖』、あるいは『妖術を使う何か』であることを意味し、加えて現在手擦っている犬神の仲間であることから犬神と同等の能力を秘めている可能性を示唆していた。しかし、部隊長であるブランク大尉だけは他の可能性を考えていた。
「まさか・・・あれは都市伝説みたいなもののはず・・・。」
再び乱れた敵兵の陣形の隙を狗美は見過ごさず、すかさず攻勢に転じた。狼狽える兵たちは次々と倒され、残りは10人弱となる。
一方で相変わらずふらついている和神は、狗美が兵を蹴散らすのを横目に、周囲の家々の陰に潜む不穏な人影に注視していた。そもそも、村長たちは狗美に向けてボウガンを放とうとしていた。村長が“そういうこと”をするのならば、村人がしてもおかしくはないため和神は警戒していたのである。とはいえ、和神の妖力は今しがたの“陽撃”でほぼ空になっていた。が、今回は僅かに“天力”と“霊力”もある。使った事はないが、コツは“陽撃”と同じはず、もしも村人たちが攻撃してくるようなら迎撃しようと和神は備えていた。
「村人まで・・・?」
特使は流石にたじろいでいた。貴族階層から庶民階層に降格した者たちの中に不満を持つ者がいることは把握していたが、現在も貴族院に席を置いているブランク大尉と階層問わず在籍しているサンクティタス軍の常駐部隊・遠征部隊と庶民階層村人たち全てが共謀して裏切るなど、考えもしなかった。
「ミネルヴァちゃんもどーよー隠せない感じ?だよねぇ。このゲビューラ自体が罠になってたーなんて。でも、こっちもそーてー外だったんだよ?ホントはここに来た一個小隊に奇襲でもかけてさっさと潰してから妖界の方に突撃するはずだったのにさぁ。やって来たのは軍なんかよりもっとやり手の“お姉ちゃんたち”とその“お姉ちゃんたち”を何故か虜にしてる人間の男。まぁ、いーんだけどね、こっちは“よーどー”だから♪」
たじろいでいた特使はサキュバスNo.777の言葉でふと我に返り、すぐさまサキュバスNo.777に問い詰めようとしたが、それを武装した村人らが阻む。
「・・・!退いてください!私はあなた方と戦うつもりはありません!」
「そっちはそうでもねぇ!こっちはあるんだよ!!」
「稼げるって聞いたから来たってのに!魔界来たら体は思うように動かねえ!頭はおかしくなる!」
「俺の女房は病気で死んだ!」
「私の夫も!子供もよ!!」
「全部アンタら貴族院のせいだ!」
特使を取り囲み、憎悪と憤怒に満ちた表情で次々と怒号を飛ばしてくる村人たち。特使はこれまでの人生でこんなに誰かに恨みや怒りを向けられたことはなくどうすれば良いのか、何も分からなくなっていた。この様子に陽子と陰美は気付いたが、遠征部隊の相手で特使の方に向かうことはできない。そんな中、そのどさくさに紛れて特使の脇腹にナイフが刺さった。誰が刺したのかは分からなかったが、誰かがまた怒鳴りつける。
「口減らしのために俺ら庶民階層の人間を魔界に送って勝手に死ぬのを待ってたんだろ!?ヴァイスさんから聞いた!!」
「!!」
特使はその怒鳴り声に驚愕した。“ヴァイス”。ヴァイス・セイクリッド・スノウ・・・貴族院の幹部で評議会にも発言権を持つほどの人物であった。
「どこまで・・・。」
特使はそう呟くと全身から天力のオーラを放出し、それを眩い閃光として爆発させた。村人たちは一時的に視界を奪われ、屋根の上から高みの見物をしていたサキュバスNo.777も影響を受けた。
「まぶっ。」
その閃光の中から特使は飛び出し、天力の剣でサキュバスNo.777に斬りかかった。
都合により、次週は休載致します。次回は3月18日となります。よろしくお願いします。




