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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
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最終話:快晴の旅立ち

“彼の者”との戦いから約1年後―。

流界・とこしえ荘


 早朝、和神翔理はコンビニへと出かける。春の終わり頃の朝空は気持ちのいい快晴で、朝焼けによって薄黄色に染められ、街灯は夏炉冬扇と化していた。昨年までの和神は早朝のアルバイトをしていたため、アルバイトが休みの日でも朝早くに目が覚めてしまう癖がついていたが、今は、半年ほど前に始めた“調和屋ちょうわや”という困った人・妖・魔族を救済する何でも屋のような仕事で早起きしている為、朝早く目覚める癖は相変わらずであった。この日も4時頃に目が覚めた上、腹も減ったので朝食を買いにコンビニへ向かうのである。和神の住むアパート“とこしえ荘”から最寄のコンビニ“エミリーマート”までは片道5分ほど。少し立ち読みをして自分の分と狗美の分の朝食を購入して帰ってきても、家を空けたのはおよそ15分弱。だというのに、帰って来たとこしえ荘の前には、出かける前まではなかった見慣れた顔があった。

「む、和神。コンビニに行ってたのか?なぜ私を起こさない?」

帰って来た和神に狗美が不機嫌そうに問いかける。

「いや、起こすのも悪いかなぁって・・・。」

狗美は和神の部屋で寝泊まりする事が多くなっていた。とはいえ、2人の関係性は“彼の者”との戦い以前から変わっていないのだが、それを信じていない者もいる。

「それさぁ、完ッ全にカップルか新婚の会話だよねぇ?やっぱ、超えたんでしょ!てか、とっくに超えてるよね!?1つ屋根の下で寝泊まりしてたら絶対一線超えるよねぇ!?」

サラが2人に嫌疑(?)をかける。

「朝から・・・騒がしい・・・。」

フウが呆れたように言う。

「だってさぁ!」

「超えてたら・・・何?・・・2人が幸せなら・・・良い。」

「いや、超えてないからね。何もないから。ホントに一緒に寝てるだけだから。」

和神は否定するがサラの疑いの眼差しは変わらない。

「大体、何か私に割り振られる仕事多くない?2人きりになる為に遠ざけてるんじゃない?」

「それはないでしょう。仕事を割り振っているのは陰美さんなのですから。」

ミネルヴァが冷静に見解を述べる。

「買収だよ!和神くん社長だもん!陰美ちゃんは抱き込まれたんだよ!」

「それはあり得ませんね。貴女ならともかく、私は公正に仕事を割り振っています。」

陰美にまで疑惑を持ち始めたサラに、とこしえ荘の2階にある自室の前から陰美が告げる。

「わたしもたまに手伝っていますから、間違いありませんよ。」

隣にいる陽子も証言する。

現在、この場にいる全員がとこしえ荘を拠点とし、“調和屋”の一員として世界中から届く依頼を受けて動いている。陽子と陰美は護国院に、ミネルヴァは貴族院に所属しながらの兼業となっている。

「ぐぬぬぬ・・・!」

サラがぐうの音を漏らす中、話題の渦中にいる事に気付いていない狗美が投げかける。

「・・・何の話をしているのかよく解らんが、何故みんな朝から集まって来た?」

「私が連絡したのです。新たな“不老不死に関する情報”が入りましたので。」

「!!」

不老不死に関する情報・・・これを集め、実際に不老不死となる方法を見つけ出す事が“調和屋”の隠されたもう1つの目的であった。これは、不死鳥となった和神とずっと一緒に居られるように,と狗美から発案されたものである。和神を想う皆々は当然ながら、密かに監視者としての務めを担う陰美も和神を“彼の者”としないために心の平穏を維持する事は重要だと考えている為、“調和屋”の全員がこの目的に率先して協力している。

「前みたいにただの毒蛇の巣とかじゃないよね?」

サラが思い出してうんざりしたような顔で訊く。

「今回は信憑性が高いとおもいますよー。魔界西部、オキデンス皇国にある泉だそうで・・・。」

陽子が階段を降りてきて概要が書かれた資料を各々に配る。陰美はその様子を見るフリをしながら密かに和神に目を配る。

(“調和屋”の話を聞いた時は、かつてのノドカ氏と同じ悩み相談のような事を始めようとしている事に肝を冷やしたが、現状は問題ない。狗美殿と姉と・・・ここにいる皆が傍に居る事が和神を“彼の者”としない最善の策である事は間違いないだろうしな。私は調和屋のマネージャーとして近くに身を置き、監視を続けよう・・・。)

「おや皆さん、今日は休暇では?・・・ああ、それで皆でおでかけですか?」

とこしえ荘の大家である美雷が部屋から出てきた。

「おでかけ・・・ですね。」

和神がそう答えると、皆が微笑みながら頷く。

「では、お気を付けて。」

深々と頭を下げる美雷。

「おっしゃー行くぞー!」

はしゃぐサラだが狗美が一言。

「その前に朝飯だ。和神も着替えないと、そんな寝間着で行けないだろ。」

「あ、うん。」

「ちょっとー!せっかくアタシが“俺たちの冒険はこれからだ!”みたいな感じにしたのにぃ!」

和神たちは一度各々の部屋へと戻り、朝食を済ませ、準備を整え、再度、不老不死の噂の地へと旅立つ。今回は見つからないかも知れない。だが、妖の寿命は長い。その長い時間の中で、きっと見つけられる。和神が“彼の者”となることはないだろう。

そして、そのかんもずっと彼らは“調和屋”として“受け容れ”、時に拒絶しつつ、あらゆるものを救い続けていく。


世界の“調和”の為に。

初期のころから読んでくださっていた方も最近読み始めた方も、拙い文章やストーリーだったかも知れませんが、今までのご愛読ありがとうございました!

また何か書くかも分かりませんが、その時は何卒よろしくお願い致します!

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