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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
第3章:西洋妖界 編
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第37話:夕餉前のひととき

 和神はFemailたちの時間の後に、大浴場で1人湯につかった。この特使邸、本来、外の警備以外に男性は居らず、その警備員も貴族院御用達の貴族層の警備会社に委託しているらしい。つまり現状、この邸宅内に、男は和神しかいないということである。

 これは、大浴場に案内してくれたメイドが教えてくれたことである。なんでも、西洋妖界せいようあやかしかいの習わしに基づいているらしく、貴族層の妖、特にエルフ族は婚約するまで、3親等以内の家族以外の男性を自宅には招かないという。この風習は、何ともエルフらしい生真面目過ぎる貞操観念から伝わっているようだが、和神的には昨今の人間社会の緩過ぎる貞操観念よりはマシな気がしていた。

今回は極秘任務の一環であるということと、和神が脆弱な“人間”であるということ、そして何より主である特使ミネルヴァ自身が危険な者ではないと判断したため、特使邸に泊まることになったが、これは極めて異例な件である,と、案内してくれたメイドが目を細めて語っていた。それから、近所の貴族に知れるとまずいため、あまり目立つ行動は取らないように,と釘も刺された。

「まあ、部外者だもんな。警戒されて当然か。」

 そんな和神の言葉は、1人で使うには広い過ぎる大浴場にポツリと響いた。


 入浴後、和神が部屋に戻ると、クイーンサイズのベッドで月明かりに照らされた狗美が眠っていた。その情景は何とも幻想的である。ただ、着ているのはどうにも狗美には似合わないひらひらしたシルクのパジャマであった。

「元は夜行性じゃなかったっけ。」

 そう言いつつ、和神は狗美の腰くらいまで掛かっていた掛け布団をそっと肩くらいまで掛け直した。布団が掛かったことで少しもぞもぞ動く狗美を微笑ましく見ていると、その様子を特使が見ていた。

「恋人、なのですか?」

 その声に和神は驚いたが、そういう素振りは見せずに振り返り、冷静に特使の質問に答えた。

「・・・いえ、違いますよ。」

「そうですか。とても仲がよろしい様なのでてっきりそうなのかと。」

 特使は失礼しました,と頭を下げ、その後、明日の予定について説明を始めた。

「明日は“風の森”へ行きます。」

「谷じゃないんですね?」

「?ええ、森です。そこで、風の精霊・シルフ様と会って頂きます。」

「精霊ですか。」

「はい。精霊は霊力の集合体のようなもの。霊力を取り入れるのならば陽子様よりも適任です。ただ、1つ問題がありまして・・・。」

「問題?」

「・・・シルフ様は、人間嫌いなのです。貴方様が赴いて、シルフ様がどういう行動に出るか分かりません。わたくしも護衛致しますが、和神様も気を抜かぬようお願いします。」

「分かりました。」

 明日の予定を告げ終えると、特使は軽く会釈をして部屋を後にした。和神は再び狗美の寝顔に目を向けた。

「言い忘れておりました。」

 特使である。和神は再び驚きつつ、しかしそういう素振りを見せずに振り返った。

夕餉ゆうげの支度が整いました。良き時間に一階したへいらして下さい。狗美様には、後でお届け致しますので。」

 特使は今度こそ、部屋を後にした。


 一階に用意されていたディナーはこじんまりとはしているものの、品格の漂うフルコースであった。本来ならば和神には物足りない量であったが、待機しているメイドたちや部屋の荘厳な雰囲気が和神の胃を満たし、丁度よい量となっていた。

後に同じメニューが部屋に運ばれ、狗美はそれを5分もかからずに平らげた。少し不満な顔をしたものの、慣れない荘厳な屋敷と多くの人と会った精神的な疲れがあったのか、夕餉を食べ終わると程なくして再び眠りについた。

 狗美がベッドで寝てしまったため、和神はソファーで毛布をかけて眠りにつくのであった。



1月1日は休載致します。次回は1月8日になります。

来年も『異界嬢の救済』をよろしくお願い致します。

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