第364話:受け容れし者の在り方
「超えられる・・・。」
「はい、貴方は私を・・・“彼の者”を超えられる。何故なら、貴方には“意思があるから”です。私はただひたすらに“受け容れて”いました。来るもの総てを。みんなが苦しんだり悲しんだりしてる顔を見たくないから。みんなが少しでも楽になれるなら・・・と。でも、それではダメだった。間違っていたのです・・・。受け容れる事だけが救いではなかった。時には否定し、拒絶する事もまた救いであり優しさだった・・・。長い封印の中で漸く気付くことができた。・・・けれど貴方は既にそれを手にしている。貴方の記憶を垣間見て、よく解りました。ただ“総てを受け容れる”のではなく、“受け容れるものを選択する意思”を有し、違うと思うものは拒絶している。だから、貴方は“彼の者”を、かつての愚かな私を超え、打ち破る事ができると、私は信じているのです!」
「!」
和神の脳裏に破滅の不死鳥・疾風と癒しの不死鳥・美鳥の言葉が甦る。
『貴様は“受け容れし者”ではない。“受け容れし者”とは即ち“総てを受け容れし者”!某の前に立ち、某を“拒絶”する貴様は、“受け容れし者”などではない!!』
『“受け容れし者”が皆、総てを受け容れる必要なんかない!受け容れるものを選択して受け容れていいの!むしろそうあるべきだわ!!』
恐らく、美鳥さんもノドカさんと同じ様に長い年月をその結論に至ったのだろう,と和神は思った。同時に、疾風はかつてのノドカさんの在り方を否定したくなかったのだろう,とも。
「自分が“彼の者”に勝てるかもしれない思考を持っている事は分かりました。・・・でも、“ここ”からはどうやって出ればいいんでしょう・・・。それに、出たとしても、外は“あの世界”・・・“負の感情”に満ちた世界です。“彼の者”は無限に力を振るえます・・・。勝てるでしょうか・・・?」
ノドカはニコッと優しく微笑む。
「何故、今、“私”と逢えたと思いますか?」
「えっ・・・それは“彼の者”の“負の混沌”に呑み込まれたからでは・・・?」
「そうです。しかしそれは条件の1つに過ぎません。前に同じように呑み込まれた方々は私には逢えませんでした。」
「!王族の当主たち・・・!」
「あの時の混沌は今よりも遥かに強力でした。その混沌の中であの方々は意識まで呑み込まれ、“彼の者”に支配されてしまった。」
「それって・・・逆に言えば・・・。」
「はい。今の“彼の者”の混沌は封印を解かれた当初よりも遥かに弱まっており、かつ、貴方は混沌に呑まれても意識を支配されていないという事です。その為、私の意識とこうして対話する事ができているのです。それはつまり、貴方の攻撃が着実に“彼の者”の混沌を削ぎ落としているという事であり、貴方が纏っている混沌が“彼の者”の混沌に呑まれても尚、打ち破られずに維持出来ているという事!」
「!!」
和神は希望の光が見えた気がした。
「・・・さぁ、目覚めの時、決着の時です。私は飽くまで精神でしかありませんから共に行くことはできませんが、“これまでのように”“彼の者”の内側から “彼の者”の動きを止められる限り止めたいと思います。」
「!!あの“彼の者”がフリーズするような瞬間は、ノドカさんが・・・!?」
「フフッ・・・そう、貴方は1人じゃない。“彼の者”と戦う限り、いつだって私が一緒に戦っていると思ってください・・・なんて、貴方には不要な言葉ですね。貴女にはいつだって、“彼女たち”が付いているのですから・・・。」
和神の心に宿った希望の光は和神の内から輝き始め、真っ暗な精神世界を呑み込んだ。
「・・・和は和神と共に在る・・・。」




