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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
363/370

第363話:“彼の者”への道程

「和神さん、貴方は私が何故“彼の者”と呼ばれる存在となったのかご存じですか?」

ノドカの問いに、和神は大精霊から聞いた事を伝える。

「その通り、大精霊様が仰った事は事実です。・・・大精霊様・・・懐かしい。・・・私は生まれた時、いえ、記憶している中で一番古いものが研究所の水槽のような所に入っている場面でした。」

「それ・・・たぶん自分が見た場面です。」

「あぁ、その記憶を見たのですか。でしたら話しやすいです。貴方も見たのでしょう?あの絶望に満たされた世界を。」

「はい・・・。」

「ただの誰もいない世界ではなかった。誰もいない世界よりも悲しくて苦しくて寂しかった、“あの世界”にいきなり放り出された私は・・・“他者に飢えた”のです。誰でもいい、誰かに逢いたい。そんな一念に囚われました。実際、どれ程の時間と距離を歩いたのかは分かりませんが、他者を求めて歩き続けた・・・。でも、誰にも逢えなくて、私自身が絶望に囚われかけた時、急に奇妙な光に包まれて、気付いたら魔界にいて、ルシファーさん・・・あ、サタンさんって言わないと怒られるんでした・・・サタンさんに出逢えた。・・・それからは和神さんが大精霊様から聞いた通り、色んな世界を巡り、色んな人たちに出逢って、その方々を幸せにするために動き回りました。・・・でも、その根底にあるものは変わりませんでした。私は、最初に抱いた“他者への飢え”を抱え続けていたのです。誰と何人と出逢おうと、誰かに出逢う事への渇望が無くなる事はなかったのです。」

「・・・“あの世界”で感じた感覚を忘れられなかったんですね?」

「えぇ。知り合った方々がみんな死んでしまったら?いなくなったら?そんな事が常に頭の片隅にあって、不安で。それを解消するために他者だれかを求め続けた・・・。知り合った方が離れて行かないように、繋ぎ止めるために役に立とうと始めたことの1つが悩み相談でした。ですが、その悩み相談が“彼の者”を生んでしまった。生んでしまった・・・というのは適切ではありませんね。私自身が“なって”しまったのですから。色んな方の悩みを聞き、時には解決したり、そのお手伝いをしたり。相談に来られた方の悩みが解決した時の安堵した表情を見る事に喜びを感じたものです。」

「・・・でも、その間にもノドカさんの中には“負の感情”が溜まっていってた・・・。」

「そうですね・・・。色んな方々の悩みや愚痴を聞いている内に、次第に自分の中に黒いモヤモヤが生まれてきていました・・・。相談に来られる方の中には自分勝手な事を言っている方や逆恨みしているだけの方などもいて・・・正直、そういう方のお話は聞いていて不快でした。・・・でも、拒絶できなかった。どんな人でも、いないよりはいた方が良い・・・“あの世界”に戻りたくない思いと“他者への飢え”が拒絶する事を許さなかったのです。・・・そういう黒いモヤモヤした感情は増幅していくようで、いつしか自分勝手な相談者だけに抱くばかりではなくなっていきました。それまで何人もいた本当に悩んでいる方々にまで抱くようになっていったのです。喜びを感じていたはずの解決した後の安堵の表情に苛立ち、嫉妬、憎悪・・・殺意まで抱くようになりました・・・。私が解決したのに、どうして貴方が安寧を得ているの?私は“あの世界”への恐怖を拭えていないのに。どうして助けた貴方は私の力になってくれないの?悩みがなくなって清々しく大切な人や家族の元へ帰って幸せに暮らすの?いっその事死ねば一生悩まずに済むんじゃない・・・?」

「・・・。」

「・・・その頃にはきっともう、“彼の者”になりかけていたのでしょうね。そう、思わせてください・・・。」

「はい、それは“彼の者”が抱いた感情ですよ。」

「・・・ありがとうございます。・・・そう、私はそれで“負の感情”に支配された私は“彼の者”と化した。・・・そして、“だからこそ”貴方は“彼の者”にはならず、“彼の者”を超えられるのです。」

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