第362話:和神と和
白い光と黒い光に同時に包まれる。それは和神がここ1時間で幾度も体験してきた現象と酷似していた。即ち、ノドカは“時空孔”に飲み込まれたのであった。
「んぅ・・・。」
真っ暗な視界が開かれる。どうやら和神が初めて“時空孔”に飲まれた時と同様、ノドカも気を失っていたようである。どれほどの時間、気を失っていたのかは分からないが、目覚めたノドカが見る風景は、和神には見覚えのあるものであった。薄暗い空と大地。ノドカの肌を通じて感じる空気には瘴気と魔力が混ざっている。
(魔界だ・・・。)
さっきまでいた世界と大差のない暗い世界である魔界だが、それでも、さっきの世界よりもマシに感じられた。決して明るくはないものの、“負の感情”に満ちてはいない。世界が絶望していない。ただ、さっきの世界とは違った、強く荒々しい“負の感情”が、一定の方向から放たれているのを感じられた。
ノドカもそれを察したのか、本来ならその“負の感情”がする方向とは逆方向に向かいそうなものだが、誰かに逢う事を切望していたノドカは“負の感情”が放たれている方向へと歩き出した。
「誰か・・・いる・・・?」
10分ほど歩いた時、地面に開いた大穴に到着した。荒々しい“負の感情”は、その大穴の中から溢れ出している。
「あの~、誰か・・・いますか~?」
掠れるような声を絞り出してノドカが呼びかけると、大穴の底から返事が来た。
「何者か。否、何者であろうと構わぬ。穴の底まで降り、我を此の十字架から解き放て。」
威厳に満ちた、凶悪な声。和神はその一言で声の主がサタンであることを理解した。そして同時に、自分が今見ている視界の主・ノドカが“彼の者”であるという事も理解した。
「困ってる・・・のかな?今から降りますね?」
相手が天界を追放された堕天使で、後の魔王である事など全く知る由もないノドカは、そう言うとフワッと、さも当然のように宙に身を浮かせて少しずつ大穴の中へと降りていった。
・・・・・そこで和神の視界は遮られ、真っ暗になった。
「和神さん・・・?和神さん?」
女性の声に呼ばれ、“自分の眼”を開いた。真っ暗・・・というより真っ黒な風景の中に、長い黒髪の、和服を着た女性が立っていた。
「・・・?あの・・・。」
突如として現れた目の前の女性に人見知りする和神に対し、女性は優しく語り掛ける。
「突然申し訳ございません。私の名は和。今しがた貴方と戦っていた“彼の者”と呼ばれている存在の核となっている者です。」
「!ノドカ・・・さん。」
「その様子だと、貴方も私の記憶を少し垣間見たのでしょうか?」
「あ、はい・・・。和さんは・・・僕の記憶を?」
「ええ、少しだけ、断片的に。」
「そう・・・ですか。」
断片的に、というのが気になった。見られたくないような所だったら嫌だな,と。
「狗美さんと初めて出逢われた所や、陽子さんの為に尽力した所や、ミネルヴァさん、フウさん、サラさんなどと出逢い、共に過ごされた時間など・・・とても、素敵な光景でした。」
「そうでしたか・・・。」
見られたくないような場面じゃなくて良かった,と和神はホッとした。
「・・・ここは、私と貴方の精神の空間、のような場所なのです。ですので、互いの記憶が少し融け合い、互いの記憶を垣間見る事となったのでしょう。」
「精神の空間・・・。」
「覚えておりませんか?戦いの中、“彼の者”の“混沌”に飲み込まれた事・・・。」
「・・・あぁ、覚えてます。避けようがなくて・・・。」
「はい。ですが、飲み込まれたお陰で、こうして漸く貴方とお話する事が出来ました。・・・ご安心を。“混沌”に飲まれても、貴方はまだ敗けてはおりません。それどころか、きっと勝てます。」
「!?」




