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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
360/370

第360話:和


妖界・京・王土跡の窪地

和神と“彼の者”が姿を消してから5分―。

晴臣と天ヶ崎は、難波らとサンクティタス王国を始めとする諸外国との情報共有を行うと共に崩壊した司守の間の処理をしに護国院へ戻った。一方で狗美たちは王土跡の窪地にて和神の帰還を静かに待っていた。

「ひとつ、よろしいでしょうか?」

沈黙を破ったのはミネルヴァの大精霊への問いであった。

『何かしら?』

「“彼の者”“彼の者”と・・・我々は当然の如く呼んでおりますが、それは“彼の者”の名ではないですよね?大精霊様のして下さった“彼の者”の過去の話・・・。あそこに登場したサタンを助け、世界中の人々を救おうとした“受け容れし者”には名があったのでしょう?それを“彼の者”と呼ぶのは、その名を歴史から隠匿するため・・・或いは消失させるためでしょうか?」

大精霊は暫しの沈黙の後、答える。

『確かに、“あの子”には名があった。我らがそれを呼ばず“彼の者”と呼ぶようにしたのは、貴女の言うように、隠匿するため。良からぬ者が“彼の者”の存在に辿り着けないように“彼の者”という不特定の第三者を示すような言葉にした。それが同一人物であるかどうかさえ曖昧にできるように。』

「和神も返って来なかったら・・・“彼の者”と呼ぶのか?」

鋭い眼光で狗美が尋ねた。

『・・・そうね。呼ぶでしょうね。』

狗美は憎しみを籠め、ギリッ・・・,と歯を食いしばる。

『けれど・・・我らが“あの子”を“彼の者”と呼ぶのにはもう1つ理由わけがある。それは、かつての“あの子”とは別物であるとするため。かつて世界に平穏を齎そうと駆け回っていた“あの子”と世界の負の感情を集約し、世界を絶望で呑み込もうとする“彼の者”は全く別の存在であるように扱うため・・・。そのどちらもが“彼の者”と呼ぶ理由よ。』

大精霊は狗美の方を見る。

『貴女だって、今まで共に過ごしてきた和神かれが、世界を滅ぼす災厄になってしまったら・・・和神かれと災厄は別の存在として、皆に記憶して欲しいのではなくて?』

「・・・分からない。だが、私は和神あいつが災厄になどならないと信じているし、私が和神あいつを災厄にはさせない。」

その力強い瞳に、大精霊は思いを馳せる様に目を伏せる。

『そうね・・・我らも、そう在る事が出来れば良かったのだけれどね・・・。』

「・・・で、“彼の者”の名前って?気になっちゃったんだけど?」

サラの陽気な声で問う。

『“彼の者”の真名として・・・ではなく、世界を救おうとした者の名として、記憶して。“あの子”の名は・・・のどか。』


(?・・・ここは?)

和神は暗闇の中で目を覚ました。暗い・・・と認識する事さえ難しいほどの闇が周囲を覆っていた。

(俺は・・・呑み込まれたんだ・・・。“彼の者”の爆発するみたいに膨れ上がった“負の混沌”に・・・。周りがこんなに暗いって事は、俺の“正の混沌”はもう光ってないって事だろうな・・・。)

“不知火”

(・・・ダメか。不知火も出ない。他の“力”も何も出ない・・・。死んだのかな・・・。“彼の者”に呑み込まれて死ぬとこんな感じなのか・・・それとも死ってみんなこんな感じなのか・・・?一般的な死後が分からないからなぁ。)

そんなことを考えている間に、目の前に僅かな光が一瞬見えた。

(お?)

その光は何度か繰り返し明滅する。まるで暗がりから眩しい外界へ出た時のまばたきのように。そして、次第に光が射し込む時間が長くなっていき、やがて完全に周囲は光に照らされた。

コポコポ・・・

何やら音も聞こえてきた。

(水の中・・・?)

暗闇が晴れると和神は、薄緑色の液体の中から研究室のような大きな部屋を見ていた。

「検体の覚醒を確認。ポットの排水を開始します。」

機械的なアナウンスが流れると、周囲を囲んでいた水の水位が見る見る下がっていき、やがて完全に水が抜かれた。

「ポットを開放します。」

ガシャァン・・・

前面にあった透明なガラスかアクリルの壁がスライドし、開いた。

(!これ・・・俺の意思じゃない・・・。それに・・・。)

和神は右足を踏み出そうとしたが、その“光景”は左足を踏み出していた。

(これ・・・女性だ・・・!)

ポッドの中に入っていたその“光景”は女性の視界であった。それが分かったのは、その光景を見ていた女性が裸だったからである。目のやり場に困る和神であったが、この“光景”は和神の意思では“閉じる事”が出来なかった。完全にこの光景を見ている女性の視界と一体化しているようだった。

女性は自身の入っていたポッドの前に置かれたキャスター付きの医療用カートの上に置かれた書類を見た。その書類は酷く汚れており殆ど何と書かれているか判別できなかったが、かろうじて読めた文字は“No.”“D”“0”“-CA”。

これを見た女性は呟いた。

「の・・・ど・・・か・・・。」

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