第359話:終点
和神と“彼の者”の戦いは続く。殴り、蹴り、撃ち・・・。攻撃が放たれる度に空間は歪み、攻撃と攻撃がぶつかり合う度に“次元孔”が生み出され、その内の幾つかは恒久的にその場に固定されていった。また、両者の特別に強力な攻撃同士がぶつかった際には“時空孔”が穿たれ、その度に両者は別の時間・世界へと飛ばされた。流界、妖界、魔界の様々な時代に移動しては、その場で戦闘を継続する。それらの戦闘の多くは人気のない場所であったが、人目がある場所で行われた場合は、幻を見たか、或いは神々の闘争として認識され、伝説となって語り継がれ、そこに神社が建てられるきっかけにもなった。
そんな戦いの中で、いつしか和神は、飛んだ先の世界がどういった場所・時代かをいちいち気にしなくなっていった。中にはごく最近の、和神自身が生きている時代もあったかも知れないし、見憶えのある場所もあったかも知れなかったが、それ以上に和神にとって重要な事象があったのである。それは“彼の者”の変化。戦いを続けていると、あの巨大化していた“彼の者”が次第に人間のサイズまで小さくなっていたのである。“彼の者”と対等かそれ以上に戦える今の内に、決着をつけたいと考えていた。
“正混沌拳”
オオオオオオ・・・!!!
また両者の強力な一撃同士がぶつかり合い、“時空孔”が開かれ、別の世界へ。“時空孔”はその異常性の高さからか“次元孔”とは違って、その場に固定される事はなかった。
とある時間のとある世界。
和神には、また別の世界・時代に飛んだ自覚はあるが、これまで同様に気にせずに戦闘を継続する。そのつもりであった。しかし、今回飛ばされてきた世界は今までの世界とは明らかに何かが違った。白亜紀にて“彼の者”の齎した隕石による大量絶滅の比ではない“負”が、渦巻いていた。
「ここは・・・?」
和神の纏う“正の混沌”が、その輝きを鈍らせていた。
「白亜紀の時とは違う・・・何の“正の感情”も感じない・・・。この世界は“負”で・・・“満ちている”・・・?」
オオオオオォオオオォオオオォオオオォオオオ・・・!!!!!
“彼の者”が途轍もない力を得ようとしているのが、ありありと伺えた。
「マズい!」
“正混沌拳”
ドゴォン!!!
“彼の者”が吹っ飛ぶ。まだ効いている事を確認した和神は“彼の者”がこの得体の知れない世界から力を得る前にトドメを刺そうと一気に攻める。
“正混沌乱舞”
ドゴッ!ドゴ!!ドゴ!!ズア!!!ドガッ!!!ズガァァン!!!
あらゆる打撃に閃光も浴びせ、最後に顔面に最大の“力”を込めた一撃を見舞い、地面に叩きつけた。
「ハァ、ハァ・・・。」
息を切らす和神。それは、戦っているからという理由だけではなく、この世界に漂う重く、苦いような空気がそうさせていた。
「トドメだ・・・!」
“正混沌拳【全開式】”
右腕に最大級の“正の混沌”を纏わせ、地に伏している“彼の者”にトドメの一撃を放つ。
キャドッッ!!!
手応えはあった。だが・・・。
ズオオオオオ!!!
「!?」
王土を呑み込んだあの巨大な黒いドーム。“彼の者”からそれが展開された。攻撃を打ち込み、零距離にいた和神に逃れる術はなく・・・。
オオオオオオ・・・
和神は“負の混沌”に吞み込まれた。




