第358話:未来への希望
絶望、恐怖、憤怒、悔恨、憎悪・・・そういった負の感情に覆われ、“負の混沌”が力を増す絶好の環境において、“正の混沌”を主な力として戦っている和神が、これまでで最も強靭な一撃を放った。この矛盾した不条理な一撃に、超巨大化した“彼の者”が物理的に、(あるのかは不明だが)精神的にたじろいでいた。
“彼の者”が態勢を立て直し、和神の方を見ると、そこには眩い“光”があった。和神の纏う“正の混沌”が、かつてない程に強く輝いていたのである。
「光ってる・・・力が漲ってくる・・・。」
和神自身、ここで漸く自身が発光している事に気が付く。そして、その理由にも察しが付いていた。
「地球の歴史上最大の大量絶滅・・・たぶん。その瞬間がこんなに負の感情に覆われているなんて、正直、想像以上に重い。“彼の者”、お前がそれを見越して隕石を落としたのかは分からない。俺たちが戦わなければ、恐竜の歴史はもっとずっと長く続いていたのかも知れない。普通の人間なら、自分が来たことで恐竜が絶滅してしまったのかもしれないって事に罪悪感を覚えて負の感情に捕らわれてしまうのかも知れない。でも、俺はちょっと普通じゃない。それに、知識がある。この大量絶滅があったから、哺乳類の時代がやって来るんだって知識がね。」
和神の纏う“正の混沌”が一層光を増した。
「大精霊様の話だと最初の人間は妖界からお前が連れて来たらしいけど、その時、流界が人間が生活できる環境にあったのも、この大量絶滅があったからこそって事だ。そして、俺は人間から生まれた。今は不死鳥になってるけど、元々は人間だった。・・・つまり、皮肉なことだけど、お前の引き起こした大量絶滅のお陰で俺はここにいるって事なんだ。」
オオオオオオ!!!
激昂したのか、“彼の者”がその巨大な拳を振るう。
“正混沌拳”
ドンッッッ!!!
和神の拳と衝突し、その威力は拮抗している。
「流界は今、負の感情で覆われてる。でも、“満たされて”はいない。今まで、今も尚、隠れ潜んで生きている、この現状を乗り越える生物たちが、次に時代に繫栄する!負の感情で覆われたその内側には、この世界には、“正の感情”が隠れされているって事だ。“この先に生きていく、未来への希望”が!」
カァァァァァ・・・!!!
“正の混沌”の輝きが絶頂を迎える。
オオオオオオ・・・!!!
一方で“彼の者”の“負の混沌”も闇を深める。
両者の力が最大出力となり、光と闇が同時に一帯を包んだ。
妖界・某時代・某所
初めて“時空孔”を開き、白亜紀に来た時とは違い、和神には意識があり、“彼の者”と拳をぶつけ合ったままの状態で別の次元、別の時代、別の場所へと移動していた。そこは普通の妖界のような雰囲気の場所であった。
バァァン!!!
両者は拳を弾き合う。
オオオオ!!!
“彼の者”から“負の混沌”の光線が放たれる。
“正混沌撃【極大式】”
カッ!ズアアアア!!!
双方の光線がぶつかり合い、周囲の空間が歪む。
バァン!!!
光線が弾け消えると同時に和神の蹴りが“彼の者”の顔面を捉える。
“正混沌脚”
ドォンッ!!!
オオッ!!!
“彼の者”の手から放たれた“負の混沌”の光線が和神を襲う。
「耐えられる・・・!」
“正混沌拳”
オオオオッ!!!
再び両者の拳がぶつかり合うと、周囲は光と闇に同時に包まれ、両者はまた別の時空へと飛んでいた。
戦闘に集中している両者は気付かなかったが、先の戦闘で光線がぶつかり合っていた場所には、“次元孔”が生み出されていた・・・。




