第357話:負の世界
“彼の者”が引き寄せた隕石は和神に直撃したわけではなく、海へと落ちた。それでも巨大な隕石が衝突したことにより齎された災害の数々は、恐竜の時代に終止符を打った。
隕石がぶつかった際に生じた熱波。ぶつかった衝撃による地殻変動、それに伴う地震・火山の噴火。地震に伴う津波、噴火によって立ち昇る噴煙と、隕石がぶつかった際の衝撃によって巻き上げられた砂塵に空は覆われ、長らく太陽光は遮断される事となり、やがて氷河期が訪れる事になる。それは宛ら“神の裁き”でも下ったかのような災害の怒涛であった。
ボォウ・・・
隕石衝突によって最初に発生した熱波は一瞬で和神を呑み込み、消滅させた。それからどれ程の時が過ぎたのかは解らないが、和神は再生した。
「・・・。」
元居た場所で再生を果たした和神だが、周囲の光景はまるで別世界と化していた。翼竜が飛び交っていた高く青かった空は、どす黒い雲に覆われ火山弾が降り注いでいる。ティラノサウルスが棲んでいた樹海は火の海と化し、様々な恐竜が闊歩していた大地は割り砕けていた。
見渡す限りが、災害の跡であった。そして、そこで和神は感じた。
「・・・“負”で溢れてる・・・?」
“受け容れし者”として目覚めて間もない和神でも、世界が負の感情で溢れ返っている事が解った。それは他ならない、絶滅していく、もしくは絶滅していった恐竜たちを始めとする大量の生物の死と、その瞬間に増幅した恐怖や無念、憎悪、憤怒などによって生じたものであった。
オオオオオオオオオオオオ・・・
それは即ち、“彼の者の世界”である事を示していた。
「!!?」
強烈な“違和感”に振り返った和神。その眼前には、白亜紀に来る直前に巨大化した“彼の者”を遥かに凌ぐ、天まで届くほどの黒き巨人となった“彼の者”が立っていた。
オオオオオオオオオオオオオオオオ・・・!!!
「何m級の・・・。」
見上げる和神に、“彼の者”は容赦なき一撃を繰り出す。
ゴオッ!!!
“彼の者”の胸部から巨大な“負の混沌”の光線が放たれ、和神を呑み込んだ。“負の混沌”の光線は和神を呑み込んだだけでは飽き足らず、そのまま大地を抉り、地中を進み、地球の反対側まで貫通した。
オオオオオオオオオ・・・!!!
その強大な力に歓喜するように“彼の者”が咆えた。
“正混沌撃【極大式】”
ドッ!!!
“彼の者”の胸部に眩い白き閃光が直撃した。言わずもがな、和神の手によるものである。あの巨大な“負の混沌”の光線を躱したのか、和神は当然のように反撃に転じていた。
“正混沌撃【極大式】”
ゴォッ!!!
更にもう一撃放つ和神に、“彼の者”は力の差を見せつけるかのようにその剛腕を振るう。
バァァァン!!
“彼の者”の巨拳は“正混沌撃”を正面から打ち破っていくが、どういうわけか、完全に押し勝つことは出来ずにいる。
オオオオオオ!!!
“彼の者”が苛立ちのような轟音を響かせる。
バァン!!!
同時に、“彼の者”の巨拳が“正混沌撃”を打ち破った。だが、その巨拳の先に和神はいない。
“正混沌拳”
ドゴォォン・・・!!!
遥か上空、天にまで至るような位置にある“彼の者”の頭部。その側面を強い衝撃が襲い、“彼の者”はその巨躯にして態勢を崩した。
オオオオ・・・
大量絶滅により“負の感情”に覆われ、もはや“彼の者の世界”と化したはずの現状において、“彼の者”は封印から目覚めてから最大の“衝撃”を受ける事となっていた。




