第355話:白亜紀
白亜紀。それは6500万年前の太古の昔、人類が存在しない、恐竜が隆盛を極めた時代。生い茂る樹海にはティラノサウルスやトリケラトプスが闊歩し、巨大昆虫が飛び交う。高空では翼竜が飛翔し、海中には海竜やアンモナイトが遊泳している。そんな時代。
恐竜が隆盛を極めた・・・最後の時代。
流界・白亜紀某所
和神は人類が存在しない時代で拳を振るう。
“正混沌拳”
ドガァン!!!
先刻の“正の混沌”との衝突による影響なのか、時を越えた影響なのか、巨大化が解け元のサイズに戻った“彼の者”は、例によってフリーズ状態にあり、混沌纏う和神の拳をまともに食らった。だが、それが“きつけ”となったのか、“彼の者”は俄かに動き出す。
グンッ!
「ギャァァッ!」
「!?」
ドグァ!!
背後の割と近い距離で鳥類の叫びのような音が聞こえ、振り返ると、和神の腹を翼竜・ケツァルコアトルスの嘴が貫いた。
「ぐッ・・・!」
吐血する和神、暴れるケツァルコアトルスはパニック状態で翼をバタつかせて暴れる。それが和神の傷口を抉り広げていく。
「ィイイ痛ィ!」
“妖拳【双挟】”
ガァン!!
妖力を纏わせた両拳でケツァルコアトルスの頭部を挟むように殴りつけた。脳震盪を起こしたケツァルコアトルスは暴れるのを止めた。だが、おかしなことに重力に従い、力なく地に落ちて“いかなかった”。それどころか、ますます和神の腹部に深くめり込んでくる。
「痛ッ・・・!!何だ・・・!?」
「ギャァァ!!」
「ギャー-ス!!!」
更に周囲を飛んでいたケツァルコアトルスたちも和神に引き寄せられるように飛んでくる。
「何で!?」
さっきまで和神に興味を示していたのは、腹を空かせたティラノサウルスだけであった。翼竜たちは明らかに異質な存在である“彼の者”を警戒し、注視していたはず。それが今、和神に向かって一斉に飛来している。混沌を使ったから?,など、思考を巡らせる和神に次々とケツァルコアトルスの嘴が襲い掛かる。
「悪いけど・・・!」
“自爆の不知火”
メラメラ・・・ドガァァァン!!!
和神は不知火の業火と共に自爆し、自身に突き刺さっていたケツァルコアトルスと迫っていたケツァルコアトルスたち全てを自身ごと消し飛ばした。その爆発に周囲にいた他の翼竜たちは明確な危険を察知したのか、退散していった。
ボォウ・・・
自爆した地点に不知火が灯り、やがて人の形を成す。
「痛かった・・・。間近で見るケツァルコアトルスはデカくて結構怖いし・・・。」
そう呟きながら和神は再生した。
ゴオッ!!
「うおッ!」
大岩が和神の左右から飛んできた。
“魔拳【双開】”
魔力を纏った左右の拳を、左右から迫り来る大岩それぞれに打ち込み、破壊した。
バキバキバキッ・・・!!
「!?」
背後から巨大な木々が飛んできていた。
「これって・・・。」
和神やっと理解した。ケツァルコアトルスが突如自分に飛来してきたのはケツァルコアトルス自身の意思ではなかった事を。“彼の者”による攻撃であった事を。
「“受け容れる力”の応用的な事か・・・?」
和神は思った。今まで、“受け容れし者”として狗美たちから幾度となく文字通り、“力”を借りてきた。妖や魔物たちにその意思がなくとも、近くにいるだけで少しずつその“力”を吸収していたし、妖界や魔界にいればそれだけで周囲に漂う妖力や魔力を“受け容れていた”。その能力に幾度も助けられてきたが、もしも、その能力を悪意を持って使ったら?悪意を持ち、“受け容れし者の能力”をもっと高度に扱える技術も持つ者が使ったら・・・?
「“受け容れし者が受け容れる力”を持つものを操る事もできる・・・?」




