第354話:時空孔
和神と“彼の者”両者の巨大な“正の混沌”と“負の混沌”がぶつかり、両者は姿を消した。大気中に和神の気配を感じられなくなったフウは焦っていたが、焦っているのはフウだけではなかった。
「和神くんは・・・?」
「“彼の者”もいません・・・まさか・・・。」
陽子とミネルヴァが零すように声を発する。
「サタン様!和神くんはどーなったんですか!?」
サラが依然として凛然と仁王立ちしているサタンに問う。
「フン、混沌同士のぶつかり合い、“そういう事”にもなろう。」
「!!?」
サラの顔に絶望が押し寄せてくる。
『皆、落ち着いて、よく見て。』
大精霊は冷静にそう言うと、和神と“彼の者”の攻撃がぶつかり合った虚空を指さした。そこには見た事のない空間の“揺らぎ”が生じていた。
「あれは一体・・・?」
陰美が訊く。
『恐らくは“次元孔の跡”でしょう。巨大きな混沌同士の衝突は一時的に次元の壁を揺るがせ、“次元孔”を発生させ、和神と“彼の者”はそこに入ったのでしょう。』
大精霊の説明に一同は胸を撫で下ろす。
「フン、大精霊、理解っているだろう?“アレ”は次元孔などという“生易しい”ものではない。」
「・・・どういう事だ?」
狗美が大精霊を問い質す。
『・・・ええ、今のは皆への説明しやすいよう次元孔と言いましたが、実際あの場所に生じた“アレ”は次元孔と似て非なるもの。・・・強いて言うならば“時空孔”と呼べるものでしょう。』
「時空孔・・・。」
『・・・あの“揺らぎ”は次元の壁のみならず、空間の壁と時の壁をも揺るがせている。』
「!?じゃあ、和神は・・・!」
『恐らく・・・“別の時間”の“別の場所”に。この地球の自然を司り、掌握している私が地球上に和神の気配を感じ取れない事からも、まず間違いないかと。』
「別の時間・・・。」
『私やサタン・・・大天使の力を持ってしても“時の壁”は越えられない。“時空孔”が閉じている以上、和神と“彼の者”が飛んだ時間へ向かう事は不可能です。そして、彼らがどの時間のどの場所へ飛んだのかも分かりません。数兆年後の遥か未来か、1年後といった直近の未来か、或いは・・・。』
「・・・?」
和神は呆然としていた。“彼の者”へ向けて“正の混沌”の塊を投げ、“彼の者”はそれに“負の混沌”の塊をぶつけてきた。辺りが見た事のない白と黒が同居する衝撃に包まれた。そして今。
「京・・・護国院じゃない・・・?」
衝撃に吹き飛ばされたのか、和神は地面の上で目を覚まし、周囲を見渡していた。王土跡の窪地がなく、平坦な荒野が広がっている。後ろには鬱蒼と生い茂った森がある。
「ギャァギャァ・・・!」
空から響く鳴き声の方を見ると、翼竜が飛んでいた。
「プテラノドン・・・じゃなくてケツァルコアトルス・・・か?え?」
バキバキバキ・・・
後ろで木々が何やら音を立てているので振り返る。
「グァァ・・・」
図鑑で見た、映画で観た。その実物が目の前にいた。
「ティラノサウルスじゃん。」
「ガァァ・・・!」
バクンッ!!
頭から食われる寸前で和神は超神速移動で空中へと離脱した。
「危なぁ~・・・って食われても死なないんだろうけど・・・あっ。」
和神は本来の目的を思い出し、空中に上がったついでに辺りを見回す。
「いた。」
人のサイズに戻った“彼の者”が空中に浮かんでいた。翼竜の群れが“彼の者”の更に上空で旋回し、警戒しているようだった。
「白亜紀に来ちゃったっぽいけど、取りあえず“彼の者”は倒す・・・!」
和神は“彼の者”の方へと向かった。




