第353話:巨正VS巨負
オオオオオオオオオオオオ!!!
怨嗟の叫びか苦悶の慟哭か、巨大化した“彼の者”は空間が揺れるような轟音を発する。和神は全身に“正の混沌”を纏う事でそれを無効化し、真っすぐと“彼の者”の頭部へと突撃する。
オオオオオオ!!
“彼の者”の巨大な拳が突撃する和神に迫る。和神は身を翻し、これを回避すると同時にその拳の上に乗り、そのまま“彼の者”の腕を肩の方へ駆け抜けていく。
ズズズズ・・・!
駆け抜ける和神の目の前に、“彼の者”の腕から“負の混沌”の巨大な手が生え出てくるが、超神速により和神はこれも躱し、瞬時に巨大な“彼の者”の巨大な頭部の側面へと移動していた。
“正混沌拳【閃】”
ドッ!カッ!!!
和神の拳が“彼の者”のこめかみと思しき部分に炸裂、間髪入れずに“正の混沌”の閃光が発生した。
ズオオオオオ・・・!!
「っ・・・!!」
しかし、巨大化した“彼の者”は耐久性を増していたのか、和神の一撃に揺らがず、その頭部や肩から伸ばした“負の混沌”の手で和神を絡め捕らえていた。
“正混沌爆”
カッ!!!
和神は全身から“正の混沌”を発生させ、絡みついた“負の混沌”を霧散させて脱出し、反撃へ転じる。
“正混沌撃【極大式】”
ゴオッ!!!
両手を前に出し、極太の“正の混沌”の光線を“彼の者”の頭部に放つ。その光線は巨大な“彼の者”の頭部を飲み込んだ。
オオオオオオ!!
流石に効いたのか、“彼の者”の慟哭が響く。が、同時に、あんなにも巨大だった“彼の者”が、和神の眼前から忽然と姿を消す。
ゴ!!!
凄まじい衝撃が和神の背面全域を襲った。和神がそれを認識した時には既に地面に叩きつけられていた。地面に這いつくばる和神の上から“彼の者”の巨大な足が迫る。頭上背後から迫り来る巨大な足の気配は和神も察していた。だが、背面を強打され、前面を地面に叩きつけられた和神は、常人ならば即死の状況で、“正の混沌”や不知火を持ってしてもすぐには動けない状態に置かれていた。
「さすがにヤバいって!」
サラがそう言って狗美の方を見るが、狗美は歯を食いしばって動かずにいる。
ズガァァン!!!
その間に、“彼の者”の足が大地を割り砕き、その地響きと粉塵が狗美たちのもとにも来た。
「!!ウソ・・・和神くん・・・!?」
かつてない不安に襲われるサラだが、大精霊がその不安を拭い去る。
『大丈夫よ。彼も目覚めつつある。混沌の扱いに、ね。』
「え・・・?」
大精霊は巨大な“彼の者”の背後の方を見ていた。サラもその方向に目をやると、そこには立ち上がろうとする和神の姿があった。
「よかったぁ・・・踏まれる直前に移動したんだ。」
「ふむ、正しく“移動”であろうな、“あれ”は。」
サタンが己が部下サラに享受する。
「“彼の者”が時折見せる忽然と姿を消し、和神の背後に現れる技術。和神もそれを使ったのだ。無意識にやも知れんがな。」
「ただのめっちゃ速い移動じゃないんですか?」
「“速い”・・・という領域ではない。A地点からB地点に瞬間移動しているのだ。かつて“彼の者”を封じる際の戦闘でも度々使ってきた面倒な技術。混沌により“距離を吞み込んでいる”・・・と、推測される代物だ。」
「何それチートじゃん・・・。」
若干サラが引く一方で、和神を踏みつぶせていない事に気付いた“彼の者”が背後の気配に感付き、振り返る。そこには、空中で頭上に両手を掲げ、巨大な“正の混沌”の球体を形成させている和神の姿があった。
“正混沌球”
オオオオオオ!!!
激昂したのか憤慨したのか、轟音を響かせた“彼の者”は自身の胸の前に巨大な“負の混沌”の球体を形成した。そして、和神と“彼の者”はほぼ同時に球体を互いに向けて飛ばした。
ゴォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!
光と闇が同時に周囲を包むというかつてないカオスな現象が発生した。大精霊とサタンは自身と狗美たちを囲むように障壁を展開させ、これを防ぎ切った。
オオオオオオォォォ・・・
1、2分続いたカオスな現象が収まると、和神と“彼の者”、両者の姿がなかった。
「!?・・・和神・・・は?」
大気中から気配がしない事にフウは焦っていた。




