第352話:和神VS“彼の者”
「和神!!!」
悲痛な狗美の声が王土跡の窪地に響いた。
“正混沌撃【背面式】”
カッ!!!
和神の背後から“正の混沌”による閃光が放たれ、“彼の者”を飲み込んだ。“負の混沌”の刃は閃光に散り砕かれ、“彼の者”は苦しみ悶える様にその閃光から退避した。閃光から逃れた“彼の者”に和神の強打が炸裂する。
“正混沌乱打”
更に連続して拳や蹴りを打ち込んでいく和神。その様子に狗美たち一同はほっと胸を撫で下した。だが、サタンと大精霊はやや厳しい表情を浮かべていた。
「戦いが長引くのはいかんな。」
『ええ、和神の傷は不知火で再生しているけれど、戦いが長引けば“彼の者”は何れ和神の持つ不知火も受け容れる・・・。』
そこにミネルヴァが続ける。
「そうなれば“彼の者”は不死鳥の力を得る事になり、和神さんを殺せるようになる・・・ですか。」
大精霊は静かに頷いた。
ドゴ!ドガ!ドゴッ!!
和神の怒涛の連撃を受け続けていた“彼の者”だが、その全身から“負の混沌”の衝撃波を放つ事で和神を弾き飛ばし、状況を打開。“彼の者”は一瞬で和神の背後に現れ、“負の混沌”の刃で再び背中を貫くと、そのまま地面へと投げ捨てた。不知火の翼を展開し、地面に叩きつけられる寸での所で止まった和神であったが、“彼の者”は巨大な“負の混沌”の拳を追撃として既に飛ばしていた。
ギュドォォン!!!
“負の混沌”の巨大な拳が叩きつけられ、巨大な拳型に抉れた地面にめり込む和神。そこに“彼の者”は自身の頭上に直径10mを超える巨大な“負の混沌”の塊を形成し、和神への更なる追撃を企てていた。
「っ・・・!」
“五十重盾・・・”
「だめだ、陽子。」
流石に護りの術を展開させようとする陽子を狗美が止めた。
「狗美さん・・・!」
「私が言うのもなんだが、今は何もしちゃだめだ。全部和神の邪魔になる・・・。」
そう言って陽子の腕を掴む狗美の手は震えていた。恐らく、この中の誰よりも助けに行きたいと思っていて、それを抑え込んでいるのだろうと察する事ができた陽子は、術の展開を止めた。しかし、術の展開を止めたのは陽子だけではなかった。
「?何だ?」
サタンが訝しんでいる。その視線の先には“彼の者”の姿がある。
「・・・フリーズだ。和神が言っていた。時折“彼の者”が急に動きを止める瞬間があるって。」
狗美がそう言うと同時に和神が地上から“彼の者”に向けて飛んで行った。
“正混沌拳【閃】”
ゴッ!!カッ!!!
“正の混沌”を纏った拳を“彼の者”の顔面に打ち込み、その拳からそのまま“正混沌撃”を放つ。まだ動きを見せない“彼の者”の胸に両手を付け、“正の混沌”を放つ。
“正混沌撃【極大式】”
ゴオッ!!!
巨大な“正の混沌”の光線が“彼の者”を飲み込み、吹き飛ばした。“彼の者”の頭上に展開されていた巨大な“負の混沌”の塊は吹き飛んだ“彼の者”を追尾するように飛んで行く。そして、空中で態勢を立て直した“彼の者”をそのまま飲み込んだ。
「!自分に当たった?」
一見自分を攻撃したかのように思える事態であったが、そうではなかった。“彼の者”を飲み込んだ巨大な“負の混沌”の塊が、巨大なサイズをそのままに、人の形を形成したのである。即ち、“彼の者”は全長10mを超える巨人と化したのである。
「ラスボス感が凄いな・・・。」
そう呟きながらも、和神は怯まずに巨大化した“彼の者”へと向かっていった。
『サタン、“彼の者”が止まった時・・・気付いたかしら?』
「うむ。」
一方で大精霊とサタンは、“彼の者”に1つの可能性を見出していた。




