第351話:正の混沌VS負の混沌
オオオオオオ・・・・・
「何かちょっと前よりふんいきヤバめな感じになってない?」
サラが指摘する通り、かつて封印されていた異空間から帰って来た“彼の者”は、異空間に飛ばされる前よりも禍々しいオーラを纏っているように見えた。
『彼の空間に再び送られた怨みか、或いは彼の空間に溢れ出した“負の混沌”が残っていて、それを纏ったのか。』
大精霊がそう考察していると、サタンは考えていても仕方がないといった口調で言う。
「フン、封じねば和神に力を受け容れさせる時間も算出れなかったのだ。“彼の者”が多少強化されようがな。既に“彼の者”は帰って来たのだ、嘆いている暇はない。」
『ええ、あとは和神様にお任せするしか・・・。』
そう言って大精霊が和神の方を見ると、狗美が胸に顔を埋める様に和神を抱きしめていた。
「お前に任せるしかない・・・肝心な時に何もできない私を許してくれ・・・。」
「大丈夫だよ。今まで何度も助けられてきたんだから。」
「・・・必ず、生きてくれ。」
「うん。」
和神と狗美は鼻も触れそうな距離で見つめ合う。その瞬間、和神の纏う“正の混沌”の白い輝きが一層増したように見えた。
ンオオオオオオオオオオオオ!!!
それを察知したのか、突如“彼の者”が慟哭し、周囲に黒い波動を放った。
「ッ・・・!」
「くっ・・・なんて禍々しい・・・!」
波動を受けても大精霊とサタンは流石に動じずにいるが、他の全員が一様に悪寒と重圧を感じ、その場に膝を着いてしまう。ただ、和神と和神のすぐ傍にいた狗美だけは大精霊たちと同様に、否、大精霊たち以上に平然としていた。
「行ってくる。」
和神は何一つ不安のないような顔で狗美にそう言うと、慟哭と波動を放つ“彼の者”の元へ。
シュンッ!
狗美の超神速のような迅さで、急接近し。
“正混沌拳”
ドバァァン!!!
全力の一撃を顔面らしき部位へぶちかました。
キュドォォン!!
王土跡の窪地の外縁まで一瞬で吹き飛び、激突する“彼の者”。そこへ和神は再び超神速で追撃を仕掛ける。
“正混沌拳”
ドガァァン!!!
和神の追撃は大地を砕いた。寸での所で“彼の者”が瞬間移動し、宙へと逃れたのである。
「あれは昔我らが封印せしめんとした時にも見せた・・・。」
『ええ、速さではない、まるで距離を無くしたかのような移動術。』
ズオオオオオ・・・ギュンギュンギュン!!!
宙に移動した“彼の者”は“負の混沌”の塊のようなものを6つほど自身の周囲に展開させ、そこから“負の混沌”の光線のようなものを和神に向けて撃ち出した。
“正混沌壁”
和神は咄嗟に目の前に“正の混沌”の障壁を展開し、“負の混沌”の光線を防いだ。更に和神は、この攻防を目隠しに高速移動して、“彼の者”の背後を取った。
“正混沌踏”
ドッ・・・!!
「ッ!!」
和神は“彼の者”の背中を蹴り飛ばすように蹴り出したが、“彼の者”はまるで背後に目があるかのようにこれに対処。背中から“負の混沌”で形成された刃を突き出し、和神が蹴り出した足を足裏から甲まで貫いたのである。
“正混沌足撃”
しかし和神もただやられているわけではなく、貫かれた足の裏から“正の混沌”の閃光を放ち、“彼の者”を吹き飛ばした。吹き飛んでいる“彼の者”に追い打ちを仕掛ける和神。
“正混沌拳”
ブン!
和神の拳が当たる直前で“彼の者”は姿を消し、追い打ちを仕掛けていた和神の背後に移動していた。
「!!」
ドス!
和神の背を“負の混沌”の刃が貫いた。
「和神!!!」
悲痛な狗美の声が王土跡の窪地に響いた。




