第350話:送られる意思
和神を囲むように並び、“力”を送り続ける狗美、陽子、陰美、ミネルヴァ、フウ、サラ、大精霊、晴臣、天ヶ崎、流美、千明・千影、珠、ミネルヴァを介するミカエル。送られてくる“力”の中に、和神は各々の意思を受け取っていた。
ミネルヴァを通じて送られてくるミカエルの天力からは天界と世界の平穏を。
陰美、流美、千明・千影、珠から送られてくる妖力からは護国院に仕える者達と陽子の幸福を。
晴臣、天ヶ崎から送られてくる妖力からは護国院に仕える者達に加え、京に住む妖たちの平和を。
大精霊から送られてくる霊力からは世界全体の安寧を。
サラから送られてくる魔力からは前述したような不純であり純粋である下心を含めた和神を想う気持ちを。
ミネルヴァから送られてくる天力とフウから送られてくる霊力からは和神の無事と今後の幸せを。
陽子から送られてくる妖力と霊力からは和神を大切な人として想い、無事と幸福を願う気持ちを。
そして狗美から送られる妖力からは和神を想い、慕い、信じる心と、とにかく共に在りたいという情熱を。
和神は自身の中に次第に高まり、溢れてくる何か神々しいものを感じ始める。
「うむ、良いぞ。想定より早く和神の内に“正の混沌”が生じ始めている。」
サタンが冷静に和神の様子を注視している。
(やはり不死鳥の力を有したのが混沌の発生を促進しているか。己が内から湧き出す不知火を含むあらゆる“力”と自身が持つ意思に、他者の“力”と意思がより多く一度に混ざり合えば、急拵えではあるが混沌は生める・・・。問題は、この急拵えの付け焼刃たる混沌で長年の蓄積により生じた“彼の者”の混沌に対抗し切れるかということだが。・・・それは和神次第か。)
ビキィッ・・・!!!
サタンがそんな考察していると、遠くの空間に罅が入る。
「フン、向こうも想定より早いな。“受け容れし者”というのは何処までも儘ならぬ存在らしい。」
すると、サタンが和神に向けて手を伸ばす。
「サタン様!?」
サラが驚きの声を漏らす。
「我の内には有り余る負の感情が渦巻いている。その中に僅かに残る善と呼べそうな意思を乗せ、我が魔力も貴様に送ってやろう。」
ドォゥ・・・。
和神の中にサタンからの凄まじい量の魔力が流れ込んでくる。そこに宿る意思は、初めて“彼の者”と出逢った時の“感謝”の念。天界から魔界へ堕とされ、動けぬまま幾星霜の時が過ぎた時、突如として現れた“彼の者”。まだ“彼の者”と呼ばれていなかった、その者に磔状態から救われた際の感謝の念が、サタンの内に唯一残った正の感情であった。
バキバキッ・・・!
空間に入った罅が次第に大きくなっていくのと比例するように和神の内に宿る“正の混沌”も大きくなっていった。
(熱い。鳩尾の奥あたりが熱くなってくる。でも、不快な感じじゃない・・・。“温かいの延長上の熱い”みたいな・・・。それに凄い力強さを感じる。自信が・・・漲る!)
ビキビキ・・・ビキッ!!
和神が己が内に生じる熱と力を実感する一方で罅は次第に孔を穿とうとしていた。
『そろそろですね。力を送るのは此処までにしましょう。和神様の中で力を落ち着かせる時間もいるでしょう。・・・じき、“彼の者”が帰還ってきます。』
大精霊が力を送るのを終え、他の皆も送るのを終えた。かつてない人数からかつてない量の“力”を受け容れた和神の身体は淡く白く輝いている。
『どうやら、“正の混沌”の発現は成功したようですね。』
「確かに・・・いつも温かな雰囲気を感じておりますが、いつにも増して温かく感じられるような気が致します。」
ミネルヴァが和神の様子を冷静に述べる。
ビキビキビキ・・・バガッ!
空間に遂に孔が穿たれた。




