第346話:最後の砦
ギィシャァァァ・・・
太陽に焼かれし植物の竜は慟哭と共に倒れて行った。植物の砦は僅かに修復が進んでいたが・・・。
バガァ!!!
狗美が正拳突きを一発打ち込むと、耐久性が落ちている修復箇所は容易く破壊された。だが、破壊される事を予見していたのか、賀繫の対応は早かった。
ブオッ!!!
扇を一振り。風を司る精霊であるフウですら吹き飛ばされる突風が巻き起こった。この突風こそが謂わば“最後の砦”と呼べる代物であろう。強靭な体力を有する狗美もこの突風の中では自由に動けなかった。
「くっ・・・悪あがきを・・・。」
どうにか砦に開いた穴の縁に捕まって飛ばされないようにする狗美だが、賀繫は狗美が飛ばされるまで幾度も扇を振るう。
ブオン!!!ブオン!!!
その度に突風の風圧は増していく。ズズ・・・ズズズ・・・,と狗美の手が砦の穴の縁から外れかけた時、陽子が狗美に向かって言う。
「手を離してください。」
「!?」
狗美にはその真意は解らなかったが、これまで陽子の言葉に意味がなかった事はなかった。それを思い出し、狗美は言われた通りに手を離した。たちまち狗美の体は突風によって上空まで吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先には、声をかけてきた陽子が待っていた。
「あの砦は物理的にだけでなく、あらゆる術の干渉を阻んでいたようですが、穴が開いた今ならば話は別です。」
“【禁忌】空間妖術・転換”
ヴンッ・・・!
一瞬の内に、陽子と賀繫の位置が入れ替わった。今回は予見できていなかったのであろう、賀繫は自身が放った突風によって迫り来る狗美に対し、何も出来なかった。
ザァァン!!!
誰の目にも止まらぬ速度で狗美は賀繫を通り過ぎ、無数の爪痕を刻んだ。
キュド!!!
賀繫が攻撃された事に気付くよりも早く、狗美の踵落としが賀繫の脳天を襲い、地面へと叩き落された。叩きつけられた衝撃で砕ける大地。その破片が再び地に落ちてくる前に狗美の蹴りが、仰向けに倒れた賀繫の腹部に炸裂し、更に大地が砕かれる。ガフッ,と血と混沌を同時に吐き出す賀繫の全身を混沌が覆い始めた。
ヒュッ・・・!
それは、狗美の一方的な戦いを上空から見ていたミネルヴァの背後で鳴った音であった。ミネルヴァは瞬時に振り返り、剣を上げて防御しようとするが、内心、反応が遅れた,と焦っていた。現に、ミネルヴァの反応は遅れており、背後で鳴った音の正体・・・皿を割られ、混沌に覆われた流姫の一太刀を防げてはいなかった。しかし、ミネルヴァの剣の代わりに、小太刀が流姫の太刀を防いでいた。
「!!陰美さん!」
「私の不始末です、申し訳ありません。」
そう言うと陰美は“影疾駆”によって姿を消した。皿を割られた現状の流姫に、影と化した陰美を捉える術はなく、出鱈目に刀を振り回して迎撃しようとするが・・・。
“影牙”
ガヒィィン・・・!!
振り回される刀が弾かれ、態勢が崩れる流姫。そして・・・。
“殺取”
バグァ!!!
流姫の後ろ首が断たれ、一瞬にして膨大な混沌が弾けたかと思うと、流姫は力なく地面へと落下した。その身にはもう混沌はなかった。
「・・・助かりました、陰美さん。」
「いえ、私が仕留め損ねた所為ですので・・・。」
真面目な2人が安堵している所へ、混沌を纏いし龍が大口を開けて迫っていた。
「ッ!!?妖王・・・!」
2人は気付き、身構えた。
キュドッッッ・・・!!!
が、突如として妖王・無限は王土跡の窪地の外縁まで吹き飛び、その身体から混沌は消え去っていた。
「・・・一体、何が・・・?」
2人が状況を飲み込めずにいると、ミネルヴァの意識にかつてない冷たい声で大天使が囁いた。
『・・・ルシファー・・・。』




