第343話:超神速
ブオン!ブオン!!ガァァン!!!
「うっ・・・!」
スピードでは劣っていないサラは、どうにか剛氣が振るう金棒の連撃を躱しつつ隙を見て攻撃を叩き込んでいたが、内開式を発動させている上に耐久力と怪力を誇る“黒鬼”である剛氣にはまるで通じない。そして今、剛氣の金棒を魔力で形成した槍で“防ぐ事になってしまった”。
ドォォン・・・!!!
空間を振るわせる金棒の一撃を防いだサラの身体は吹き飛ばされた。吹き飛んでいるサラに、追撃を目論む剛氣が高速で迫る。
「ヤッバ・・・!」
カッ!!!
唐突な閃光が2人を包む。それは陽子が獣悟に放った“天狐ノ光耀”によるものであった。閃光から僅かに遅れてきた衝撃波により、サラの吹き飛ぶ軌道は剛氣に吹き飛ばされた軌道から衝撃波による軌道へと変化し、閃光や衝撃波を意に介さず追撃に迫って来ていた剛氣が振るう金棒はサラを捉え損ね、空を切った。それでも金棒を振るった衝撃が、サラが吹き飛ぶ距離を延長させる。
「危なッ・・・!うおわっ!」
剛氣は金棒が空を切ったと認識するや否や空中で身を翻し、空中を蹴ってサラの追撃を継続する。
ドザァァ・・・!
吹き飛び終えたサラが地面に倒れ込むと同時に、剛氣が金棒を振り上げていた。
「!!げ。」
サラは防御の為に槍を突き出すが、今度は防ぎきれるか分からない。だが他の防御法では間に合わない事は確かであった。サラは覚悟を決めた。
グオォン!!!
剛氣が全力で金棒を振り下ろした。
ドギャァァン!!!
「ッ・・・!・・・?あれ?」
衝撃に備え目を閉じていたサラは、槍を通じてその手に来るはずの衝撃が来ない事に恐る恐る目を開いた。
「おい、動けるか?」
そこに立っていたのは狗美であった。剛氣の全力の一振りを蹴りで打ち返していたのである。
「狗ぅぅ美ぃぃ!」
サラが歓喜の声を上げて狗美にすり寄る。
「何だ、くっつくな。動けるならフウの方に行ってやれ。ここに来るまでに見たが、気味の悪い植物どもに手を焼いてた。」
「うん!分かった・・・けど、こっちは1人でへーきなの?」
「ああ、多分な。」
狗美から感じる今までと違った気配と、勝利を確信した目に、サラはそれ以上は言わず、フウがいる方へと飛び去る。剛氣もサラの後を追う事はなかった。操られているとはいえ、本能的なもので察しているのだろう。眼前にいるものの脅威を。
サラが飛び去って3秒後、剛氣が動く。金棒を振るわんと踏み込もうとする。その踏み込む為の体重移動。その段階で、狗美の蹴りが顎を蹴り上げた。
ズバァン!!!
剛氣の重い躯体が宙に浮く。
ザァァン!!!ザァァン!!!ザァァン!!!
全方向からの同時爪撃3連発。剛氣の体から混沌が湧き立ち始める。
ブオオォン!!!
剛氣は回転しながら金棒を振るうが、狗美には当たらない。
メキャッ!!!
顔面に狗美の蹴りがめり込む。
ズガァァン!!
剛氣は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるが、その威力を利用してすぐさま起き上がり、金棒を構える。
キュドッ!!!
金棒を構えた剛氣の鳩尾に狗美の拳が炸裂し、空中へと吹き飛ぶ。
ザァァン!!!ザァァン!!!ドガァァン!!!
狗美の追撃には“迫る”という過程がないのではないかと思わせるような速度で行われた。全方向からの爪撃の後、真上から両足で蹴りつけ、地面へと叩き落とす。仰向けに大の字に倒れた剛氣に、トドメの地上50mからの胸部への踏み付け。これも備える暇も与えない程の速度で実行された。
キュドォォォン!!!
大地が割れ砕けると同時に剛氣を取り巻いていた混沌も弾け飛んで行った。




