第341話:真・犬神
ゴオッ!!
内開式を発現させた狗美のもとへ、先程まで狗美と対峙していた絲角が高速で迫っていた。あと10mで絲角の間合い、というところで閃光が絲角を飲み込んだ。
“エクスカリバー・アヴァロン”
それは巨大な光の剣。絲角は瞬時に六本の腕すべてを使って全力でその剣に拳を叩き込んだ。
バァァァン!!!
絲角は吹き飛び、狗美との距離はかなり離れた。吹き飛ばされた背後に、先刻と同じ“質”の光が待ち構えていた。絲角は吹き飛びながらにして、すぐさま振り返る。
“エクスカリバー”
ドスッ!!!
絲角は迎撃に間に合わず、ミネルヴァの“エクスカリバー”に、その強靭な腹筋を貫かれた。
一方、自身の放った“力”を自身で食らった操られし妖王・無限であったが、そこは腐っても妖王という事か、すぐに意識が混濁した状態から覚醒し、狗美に向けて攻撃を放とうと口に混沌漂う妖力を溜める。
ズドォォン!!!
妖力を溜めるよりも早く、狗美が龍の姿をした無限の長い腹部に拳を見舞った。無限は口から溜め始めていた妖力の代わりに血と混沌を吐く。
バァァン!!!
拳の一撃の余韻が冷めやらぬ中、無限の頭部を強烈な衝撃が“左右同時に”襲った。内開式を発現させた狗美の速度は最早違う方向からの2撃をほぼ同時に放つ事が可能な“超神速”と呼べる程のものへと昇華していた。
龍にこめかみが存在するのかは解らないが、両側のこめかみに相当するであろう部分に強烈な打撃を見舞われた無限は再び意識が混濁したように空中でふらついた。
ガンッ!!!
そこへ回転踵落としが脳天を急襲。
ガォン!!!
踵落としで大きく沈んだ頭部。その顎に蹴りの追撃が炸裂し、無限の体は真っすぐ縦に伸びた状態となる。そこへ・・・。
ザァン!!!
無限の全身に、およそ8方向から同時に爪による斬撃が狗美1人の手によって浴びせられた。それも・・・。
ザァン!!!ザァン!!!ザガァァン!!!
4連続で。
堅牢な龍の鱗も関係なく切り裂く“犬神の爪撃”は、無限の身体に大量の出血を伴う夥しい裂傷を負わせ、回復の為の混沌が無限の全身を覆い始めた。狗美は、妖力を右拳に凝縮させる。そして、超神速で無限の胸部へと飛び込んだ。
ドッ!!!
一撃が入った。
キュガァァン!!!
次の瞬間には無限の体が王土跡の窪地の外縁に激突していた。バキバキバキ・・・!と、地面を砕きながら埋まっていく様子から、狗美の放った一撃の威力が見て取れた。
ヴオオオオオオ・・・!
狗美が無限に怒涛の連撃を見舞っている傍ら、動きを再開させた“彼の者”は、頭上に混沌で構築されたと見られる直径10mを超える巨大な黒い球体を形成させていた。それを真っすぐ、今ようやく立ち上がろうとしている和神に向けて、投げ放つ。
遠目で確認していた陽子だが、既に賀繫が生み出す3mを超える巨大な食虫植物の群れに囲まれており、加えて、全身を混沌に包まれた獣悟が戦列に加わり、その場を離れられない状況となっていた。
ゴォオオオオ!!
そうこうしている間に、巨大な黒い球体が和神の上に落とされた。
ズゴゴゴゴゴォォ・・・!!!
地面を巨大な丸いスプーンで掬ったような穴が穿たれた。
「全く、ヒヤヒヤさせる・・・。」
狗美が和神を肩に担ぎ、“彼の者”の背後に当たる位置の地上に移動していた。
「・・・担がれるの、久しぶりな気がする。」
「そうだな。もうその必要もないと思ってたんだけどな。」
「ごめん・・・ありがとう。」
「フッ・・・たまには悪くない。」
狗美は和神を降ろす。
「あの操られてる連中はもうこっちへは来させない。だから、アレは任せるぞ。」
「うん。」
「・・・生きて、勝つんだぞ。」
「うん。」
「・・・じゃあな。」
それだけ話すと、狗美は陽子たちの戦う方へと向かい、和神は上空にいる“彼の者”の方へ飛び上がった。




