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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
340/370

第340話:狗美の内開式

カッ!!!

無限の口から“力”を凝縮させた混沌を纏いつつも光り輝く球体が、倒れる和神に向けて放たれた。

狗美は絲角との戦いに集中する中、それを視界の中に捉えていた。

ゴオッ!!!

絲角の拳が狗美の顔面に向けて打ち出されるが、狗美はそれをしっかりと避ける。続く4~5発の連撃も見切って避け続ける。狗美は眼前の絲角との戦闘に確かに集中していた。和神は不死鳥で、今や“彼の者”の混沌さえ受け容れている。あの一撃を受けても死ぬはずがない。そう自分に言い聞かせる事で、集中力を維持していた。だが、その一方で頭の片隅にほんの僅かな“可能性”が漂っていた。あの龍は“彼の者”に操られて混沌をその身に宿す存在ものだ。混沌が何をもたらすのかは解らない。ならば不死鳥の不死性すら脅かされるのではないか・・・。狗美の脳内で“大丈夫だ”という99%の理性と、“死ぬかも知れない”という1%の本能が天秤にかけられた。

ダッ!!

天秤は“1%の本能”に傾き倒れた。狗美は超高速で駆け出していた。それでも、内開式を発現させる為の手法は忘れてなかった。今、和神に向かって飛んでいる“力の球体”はミネルヴァが内開式を発現させて漸く弾き飛ばした代物。今のままの自分が駆け付けたところで、どうにも出来ないであろう事は明白だったからである。

(和神のもとに駆け付けるまでに、内開式を発現させる・・・!)

狗美は溢れ出す和神への心配・焦燥・助けるのだという決意、そういった想いを爆発させず、己が内へ秘めるよう、意識を集中させた。


旧王狼街

滅豪隊の隊員たちが、戦闘で壊れた家屋の再建や、王狼院家が没落したと噂に聞いてやって来た王狼院に恨みを持つ者たちへの対処に精を出している。

ガッシャァァン!!

「おいおい大丈夫か!?」

家屋の再建に当たっていた滅豪隊員の1人が運んでいた瓦礫の山を崩したのであった。

「ああ、大丈夫だ・・・。誰も下敷きになってねぇよな?」

「おう、そんな瓦礫の山ぁ運んでる奴の傍には近づかねぇって。いくらお前が神狼院の血筋でスゲぇ力持ちでもな。」

ドガッシャァン!!

今度は別の隊員が運んでいた家の建材を落とした。

「おいおいどうした!?お前が材木落とすなんて珍しいじゃねえか!」

「悪い・・・何か急に力が入らなくなって・・・。」

それを聞いた、初めに瓦礫の山を崩した隊員が同調する。

「そうそう!俺もだ!何か力が抜ける感じがしてよぉ・・・!」

「お前たち、今日はもう休んだらどうだ?神狼院の血筋の奴ぁ、あの日からずっと中心になって働き詰めだろ?さすがに疲れが出たんだよ。」

ミスをした神狼院の2人は疲れではないような気がしながらも、休憩を取ることにした。それからも、この数分の間に神狼院の血を引く者たちが次々とミスをし、口々に“力が抜けるような感覚がして”と語った。


王土跡の窪地

“力の球体”が和神に到達するよりも早く、狗美は球体の前に辿り着いた。そして“力の球体”をサッカーボールのように蹴りつけた。

ギュォォォォォッ・・・!!!

“力の球体”は見事に、放った張本人である無限の眼前まで蹴り飛ばされ・・・。

カッ!!!

炸裂した。無限は、自らが撃ち出した力の爆発を顔面に受け、意識が飛んだように力なく宙に漂っている。

「なるほど・・・いつも溢れ出させている感情や力を内に秘めさせればいいのか・・・。ミネルヴァの説明があれだけだったのも頷けるな。」

周囲、否、星全体に(?)放たれていた狗美の力域が、一瞬で消え去り、狗美の中に収束した。その力域の消滅は、神狼院に関係ない者であっても、勘の鋭い者であれば感知できるほど如実に“何か”の消失を感じさせるほどの違和感をもたらした。

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