第332話:内開式の体得
「ご無事ですか!?院長、最上殿!」
天ヶ崎が2人の安否を確かめる。
「・・・ああ、無事だ。」
「うむ、おぬしのお陰でな、天ヶ崎。」
「いえ、よもや院長のあの術を受けてもなお戻って来るとは、恐ろしいものです・・・。しかし、既に虫の息で内開式も解けていた様子、私の太刀でも対処出来て良かった。」
天ヶ崎の言葉に晴臣と最上は顔を見合わせ、笑い始めた。
「ハハハハ!天ヶ崎、気付いておらんのか?」
そう言う晴臣に首を傾げる天ヶ崎。
「必死だったのじゃろう。じゃが、それこそが重要な1つの“鍵”でもある。」
「お2人とも、何を申されているのでしょう・・・?」
未だ話が見えない天ヶ崎に最上が教える。
「天ヶ崎よ、おぬしが斬った初代妖王を模ったものは、内開式を解いてなどおらなんだ。」
「!!?そんなはずは・・・!でなければ私の太刀で斬れる道理がありません!」
「道理ならあるではないか。おぬしが内開式を発現した、それだけの事よ。」
「!!!??私が・・・内開式を・・・?しかし・・・最上殿の厳しい修行を幾ら乗り越えようとも体得には至らなかったというのに・・・。」
「天ヶ崎よ、あれは“儂が内開式を体得する為に行った修行”だったのじゃ。同じ修行を受けて体得に至った者もいた。おぬしよりも少ない修行で体得した者もいた。それは内開式を体得する条件が儂と似ていたからじゃと儂は見ている。」
「体得する条件・・・。」
「おぬしの場合は儂とはまるで違う条件が必要だったのじゃろう。故に誰よりも修行を積もうと体得できなかった。・・・先程の“あの瞬間”こそが、おぬしが内開式を発現させる為に必要な条件だったという事じゃろう。」
「・・・お2人を助けなければ・・・その一心でした・・・。」
「それが、おぬしの内開式発現の最後の鍵だったのじゃ。・・・護国隊の隊長としては最高の資質じゃな。カッカッカ!」
スゥン・・・
最上が高笑いした直後、周囲に満ちていた“気”のような“力”のようなものが喪失したような感覚が皆を襲った。“彼の者”が放つ異様な気配が包む中でも、それは確かに感じられた。
少し時間は戻り、晴臣たちが司守の間で戦いを開始する前。
王土跡の窪地
「ちょっと全然わかんない!出来る気がしないんですけどぉ、ミネルヴァ先生ぇー!」
そう喚きながらも操られた王族の攻撃を躱しているのはサラである。ミネルヴァは大天使から教わった内開式を発動させるための方法をそのままサラたち全員に教えた。だが“自分の内側に力域を展開する”“集中する”などという抽象的で根性論的な教えだけでそう易々と体得できるほど内開式は甘い代物ではなかった。加えて、内開式を使えない王族たちはあらかた片付けたとはいえ、内開式を使う王族数名と化け物じみた力を持つ王族の当主たちとの戦闘を行いながらなど、集中のしようがなかった。
そんな状況を、大天使は高みから見物していた。
『あの魔物の小娘はダメね。体と魔力が別物だもの。貴女と私のように繋がっていれば話は別だけど、ただルシファーから力を渡されているだけでは、高度で繊細な事は出来ない。似た理由であっちのシルフもダメ。大精霊の分身のようなものだけど、意識と霊力が別物であくまでも力を分け与えられている存在だもの。あとのコたちは、センス次第ね。』
「・・・・・あの、大天使様。分析はありがたいのですが、出来れば“こちら”に集中して頂けると・・・。」
そう言うのは、ずっと脳内に囁かれていたミネルヴァであった。ミネルヴァは今、操られた妖王・神龍院無限がサラたちのいる方向へ攻撃しないように食い止めるように戦っている真っ最中である。
『何を言っているの?戦うのは貴女自身よ?私は文字通り力を貸すだけ。・・・でも、そうね。犬神の娘と九尾の娘。あの2人が内開式を発動させられたら、貴女達は勝てるでしょうね。どう?少しは希望が持てたんじゃない?』
大天使は悪戯っぽくに笑っているが、ミネルヴァの心には確かに希望が宿っていた。
次週は休載いたします。
次回投稿は12月17日(金)を予定しております。




