第330話:司守の間跡の戦い
「私たちは外に。」
「結界の強化に。」
千明と千影は晴臣にそう提言し、晴臣はこれを承諾した。2人は今の自分たちの刀では通じない領域の戦闘になっており、自分たちがいる事で勝率を下げてしまう、足手まといになるという事を痛感していたのである。
「流乃、おぬしも出た方が良いのではないか?」
最上は流乃の手が小刻みに震えているのを見逃さなかった。その“震え”は恐れによるものでも武者震いでもなく、疲労によるものであった。
「内開式を発動した奴の一撃を流した・・・あの時すでに相当な妖力を消耗したのじゃろう?そこへ晴臣が殴り飛ばした奴を地に叩きつけた・・・。十分じゃ、おぬしは十分に活躍してくれた。あとは儂らに任せい。」
「・・・申し訳ございません。お言葉に甘えさせていただきます。」
千明、千影、流乃の三名は戦線を離脱し、珠が一瞬開けた結界の穴から外へ出て、それぞれ立方体の結界の四隅に分かれて結界の強化に当たる事になった。
ズズ・・・
流乃に叩きつけられた初代妖王の人形が立ち上がった。
「天ヶ崎、おぬしは闘れるな?」
「!・・・ええ、勿論!勉強させてもらいます!」
“神通力纏い”
天ヶ崎は神通力を見に纏った。
ザッ・・・!
初代妖王の人形が一瞬で晴臣たちの眼前に現れ、居合斬りのように刀を振るった。刀が振るわれた軌道上の空間は歪み、その刀が放った圧は斬撃として結界まで飛び、バリバリバリッ,と強化されたばかりの結界の一面を砕く。珠たちは早急に砕かれた部分の修復を開始する。
一方の刀を振るわれた晴臣たちは、この一撃を見切り、晴臣と天ヶ崎は跳ぶ事でこれを回避し、最上は屈む事で回避していた。最上は回避するために屈んだ姿勢をそのまま前進するバネとして利用し、初代妖王の人形が次の動作に入るよりも速く懐に飛び込む事に成功していた。同時に、この瞬間に最上は半妖態へと変異した。その姿はまるで角の生えた金剛力士像であった。
“妖拳・直~響撃”
ドン!!ドォオン!!!
初代妖王の人形の鳩尾に正拳突きを見舞い、間髪入れずにゼロ距離で衝撃を響かせる“響撃”へと繋げた。初代妖王の人形の身体が僅かに浮いた。そこへ、跳んでいた晴臣がグルグルと前回転をしながら初代妖王の人形の頭上へと追撃を仕掛ける。
“妖脚・地砕”
ガコォン!!!
浮いた初代妖王の人形の頭頂部に回転踵落としが炸裂し、初代妖王の人形は地面に叩きつけられた。更に最上が追撃を仕掛けに宙へ跳び、急転直下。地に伏す初代妖王の人形の頭部目掛けてラ〇ダーキックのような足刀を放つ。
“妖脚・常世ノ蹠”
ドゴォン!!
最上の追撃が当たる前に初代妖王の人形は起き上がると同時に、相撲の“立ち合い”のように急降下しながら蹴りを放って来る最上に飛び掛かり、その蹴りを額で受けた。
キャドン!!!
結界内に衝撃波が放たれ、空間が揺れる。
ダァン!!
それは、最上が結界の天井部に激突した音であった。蹴りと額による立ち合いは、額に軍配が上がっていた。
“神通刀・白閃”
最上へ追撃はさせまいと天ヶ崎が初代妖王の人形に刀を振るう。もちろん、ただ攻撃しても通じないのは百も承知。狙ったのは“眼”である。どんなに内開式で強化されていても、一瞬視界を奪うくらいはできるはずだと踏んだのである。
ブオン!!
勘づいた初代妖王の人形が天ヶ崎に刀を振るう。しかし、天ヶ崎は身に纏う神通力によってこれを回避。初代妖王の人形の眼への攻撃に成功した。




