第329話:護国院VS初代妖王の人形
妖界・京・護国院・司守の間
「参るッ!!」
五月雨最上は覇気が溢れるその言葉と同時に初代妖王の人形に攻勢を仕掛けた。
“妖脚・閃”
一瞬で間合いを詰め、初代妖王の人形の懐に潜り込む。
“妖拳・・・”
バチィィ!!!
初代妖王の人形の鳩尾に拳を叩き込まんとした最上であったが、初代妖王の人形はその動きを読んでか、或いは視認てか、最上の拳よりも迅く左手で張り手を繰り出し、最上を西側の壁に叩きつけた。張り手が振るわれた軌道上の空間は歪んでいる。
「クッ・・・!」
吐血し、壁の前に倒れ込む最上。そこに追撃はさせまいと天ヶ崎が斬りかかる。
“神通刀・白閃”
ブンッ!ガヒィィン・・・!!
天ヶ崎の太刀筋は力域・内開式を発現させた初代妖王の人形には最早通じず、軽く、それでいて眼に見えない速度で振るわれた刀で弾き飛ばされ、南に位置する門扉に叩きつけられてしまった。
ダンッ!!
初代妖王の人形が動いた。刀を振り翳し、斬り込んでくる。しかし、その対象は今しがた弾き飛ばされた天ヶ崎ではなく、目の前に立っている護国院晴臣であった。
ブオン!!!
“流水合気”
振り下ろされる初代妖王の人形の刀と晴臣の間に流乃が立つ。刀は超高速で振り下ろされているが、その軌道は単純なものであり、“力の流れ”を読む合気の達人である流乃にとって“流せない”ものではなかった。流乃は振り下ろされる刀ではなく、その刀を持つ腕、手首の真下に入り込み、振り下ろされる事に使われている莫大な力をそのまま利用した。
“流水合気・水車投げ”
グオンッ・・・!!
快挙・・・と言っても良いであろう。力域・内開式を発動させている者を、内開式を体得もしていない者が投げたのだから。初代妖王の人形の巨躯が、流乃の放つ背負い投げのような軌道を描き、そのまま晴臣の頭上に背中から落とされる。
“妖脚・昇流”
キュドォ!!!
流乃の“水車投げ”に合わせ、晴臣が直上に放った鋭い蹴りは初代妖王の人形の背に直撃。口から混沌を吐き、苦悶の表情を浮かべる初代妖王の人形は、かなりのダメージを負ったと思われる。晴臣の蹴りによって初代妖王の人形は司守の間の上空へと飛ばされた。
ダンッ!
初代妖王の人形は珠が張っている結界の天井部に逆さまに“着地”する。その瞬間、晴臣は危険を察知する。
「!!マズい!総員退避せよ!!」
晴臣の号令の直後、初代妖王の人形は結界を足場にした急襲を敢行した。
ヒュドォォォォン!!!バキバキバキバリバリ!!
司守の間の床面は原型を留めず、隕石が直撃したかのようなクレーターと化し、その衝撃で司守の間全体の壁面も砕け散った。つまり、司守の間が崩壊したのである。罅の入った珠の結界だけがかろうじて残されていたが、その内部には瓦礫の山しかない。
クレーターの中央で、悠然と佇む初代妖王の人形は結界の外にいる珠の姿を見つけると、ゆっくりとそちらへ歩き始める。
「っ・・・!私は、私の使命を果たすのみ・・・!」
珠は迫り来る初代妖王の人形を畏れながらも、一歩も引かず、結界を張り続ける。
「そのっ!」
「通りっ!」
“妖殺法・双椿”
ガキィン!
瓦礫の上から千明と千影が初代妖王の人形の首に斬撃を食らわせた。
“神通刀・白刃”
ガンッ!
瓦礫の影から飛び出した天ヶ崎も脇腹に斬撃を浴びせる。しかし、初代妖王の人形は動じる事なく珠への歩みを止めない。
ボコォン!
“妖拳・常世ノ腕”
キュドォンッ!!!
初代妖王の人形の足元の瓦礫の下から飛び上がって来た最上の一撃。吹き飛びこそしないものの、流石の初代妖王の人形もその衝撃に堪えながら後方へと地面を滑って行く。
“妖拳・常世ノ腕”
キュドォォン!!!
初代妖王の人形が後方へと下がった所に晴臣の“常世ノ腕”が左顔面に炸裂した。初代妖王の人形が吹き飛ばされる。
“流水合気・渓流落とし”
吹き飛んだ先にいた流乃は初代妖王の人形が吹き飛ぶ力を“落下する力”へと変換し、地面へと叩きつけた。
ズドォォォン!!
「皆さん!ご無事で!」
珠が歓喜の声を上げる。
「初代妖王よ、護国院はそんなに甘くはないぞ?」
晴臣はそう言うと、着ていた羽織を脱ぎ捨て、道着に袴の姿となった。




