第328話:深紅の翼
“カルデラ”
空中で態勢を崩しているルクスの人形の背に、スカーレットの刀が力強く振り下ろされた。ルクスの人形は成す術なく、これをモロに食らい、地面に叩きつけられ、そのまま地中深く埋没した。空間が歪む凄まじい衝撃波が放たれ、 “カルデラ”が行使された地点を中心に直径20m程の窪みができ、その外縁は地面がせり上がり、広場はまるで火山の火口のような地形へと変化していた。
「溶けましたか・・・?」
そっとルクスの人形が埋没した穴を覗き込むスカーレット。それを待っていたかのように、クロスした天力の斬撃が穴の中から上空へ向かって放たれた。
ザザンッ!!!
「っと・・・。」
スカーレットは難なくそれを避ける。
バッ!!
穴から高速で飛び出してきたルクスの人形の背には天力の翼が出現していた。
「エンジェルアローサルですか・・・。」
スカーレットのマイペースを崩さんとするようにルクスの人形は超高速で斬りかかる。
ガキィィン・・・!!!
ルクスの人形の斬撃を刀で受けたスカーレットは後方へと大きく吹き飛ばされていた。否、自ら飛ぶように跳ねていた。それに追いつき、ルクスの人形は追撃の剣戟を繰り出す。
“エンジェルアローサル”
スカーレットは背に、紅い紅い深紅の翼を現すと、ルクスの人形の追撃を迎撃する。
“深紅電”
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
互いの剣と剣とがぶつかり合い、その度に火花が散り、空間が歪み、放たれる波動で大地が抉れ、大気が震える。
ザシュ!
だが、ある一撃がルクスの人形の首を斬り裂いた。
ザザザザザザザザザザン!!!
その直後、一瞬の内にルクスの人形の身体に斬撃が刻み込まれた。
攻撃速度に遅れなどなかったはず,と、何が起きているのか分からない様子のルクスの人形は、ふと自身の持つ長剣に目を移した。そこには、ドロドロに溶解した“長剣だったもの”が握られていた。
「私の天力は熱いのですよ。内開式だと特に。なんでもかんでも溶かしてしまう。」
ルクスの人形はすぐさま混沌で長剣を再生させるが、その間もスカーレットの攻撃は当然止むことはない。
“落日”
ザッ・・・!!!
ルクスの人形の身体は腹を境に上半身と下半身で両断されていた。
キュボォッ!
しかも、その傷からは火の手が上がり、身体を見る見る内に焼き尽くしていく。
スンッ・・・!!!
襲い来る火の手を混沌で鎮火しようとするルクスの人形を、スカーレットが通り過ぎた。
“過日”
キュボォ!!
今度は縦に真っ二つに両断され、その傷口からも火の手が上がった。この傷もまた、混沌によって鎮火と再生が開始されるが、既にルクスの人形の身体は混沌と炎上によって燃え盛る木炭のような風体となっていた。
「だいぶ弱って来たようですね。では、終わりとしましょうか。」
そう言うと、スカーレットは今までよりも更に敏捷い速度でルクスの人形へと最後の攻勢を仕掛けた。
“ブラッディワールド”
ダァン!!
まずムーンサルトキックでルクスの人形を上空へと蹴り上げる。蹴り上げた先に既にスカーレットが待っており、居合斬りの姿勢を取っている。分身ではなく、分身していると思わせるほどの高速移動である。
ザァァァン!!!
一太刀のように見えるスカーレットの一閃は、20回の斬撃を生んでいた。ただでさえ再生中のルクスの人形の身体は更にボロボロになっていく。そこへ駄目押しの縦斬りが叩き込まれる。
キ・・・ン・・・!
“ブラッディワールド・暁の光道”
空中でルクスの人形を縦に一閃したスカーレットは既に着地していた。
キュドォォォン!!!
一閃した傷口が巨大な爆発を引き起こし、ルクスの人形を跡形もなく消し飛ばした。そのまま、ルクスの人形が戻って来る事はなかった。
サンクティタス王国軍大将スカーレット・ジャヌア・ガーネットは刀を鞘に収め、空を見上げて呟く。
「現代のサンクティタス王国は、とても強いです。安心して見守っていて下さい、ルクス王。」
貴族院正門前広場の追憶の人形・・・撃破




