第327話:微笑の戦闘
「我が出るまでもない、所詮は人形であったか。」
傍観を続けていたサタンはそう吐き捨てるように言う。
「いえ、我が見えた相手の中ではトップクラスの強者でしたぞ。太古の昔のサタン殿の“再現”・・・実に興味深いものでありました・・・。」
グレイプニルは自身が相対した“追憶の人形”に賛辞を贈った。
「フン、ダークロード種の性、少しは満足行ったという所か。まぁ良い、我は1度城に戻り、“支度”を整え、少し出る。我の留守中、有事の際は貴様に任せる。それ以外の面倒事は・・・。」
「サタン殿。」
サタンの言葉をグレイプニルが遮る。
「ダークロード種の性・・・過去のサタン殿の再現と闘い、満足・・・どころか、より増しまして候。」
そう言うと同時にグレイプニルはサタンに正面から斬りかかった。
“クレマティオ・スプリティウマ”
ズンッッ!!!
「!!?」
次の瞬間、グレイプニルは地面にめり込んでいた。
(馬鹿なッ・・・!我は未だ“内開式”を解いていないというのにッ・・・!?こんな・・・魔力の圧力だけで!?)
「過去の我を再現した人形を滅し、本能が抑えられなくなったか。下らん。己が力量、確と弁えるが良い。」
バキバキバキッ!!
「グッ・・・!」
グレイプニルを地中20m程まで埋め、サタンは霧のように姿を消した。奈落の底の底で、グレイプニルは現在のサタンの力量を思い知ったのであった。
妖界・貴族院正門前広場
力域・内開式を発動したスカーレット・ジャヌア・ガーネット大将とルクス・ゼウス・サンクティタスを模した人形が相対している。
フッ!
両者は同時に姿を消す。
キンッッ!!
得物と得物がぶつかった音が聞こえ、両者の位置が入れ替わっていた。すれ違いざまに斬り結んでいたのである。
ゴォオオオオ・・・!!
得物同士がぶつかった場所から空間が歪む波動が周囲に放たれる。だが、その波動が放たれ始める頃には、両者とも次の攻撃を放っていた。
ガキィィン!!!
スカーレットの刀とルクスの人形の長剣がぶつかり合い、鍔迫り合いになる。
ゴォオオオオ!!!バリバリバリ・・・!!
周囲には先ほどよりも大きな波動が放たれ、広場の地面が抉れていく。
ギンッ!
ルクスの人形が鍔迫り合いを早々に切り上げ、後退する。
ズバァンッ!!!
しかし、その退避行動に追いつき、スカーレットはルクスの人形を下から袈裟懸けに斬り上げる。
ヒュボォ!!
同時に斬られたルクスの人形の傷口から火の手が上がり、炎上する。
「私相手に中途半端な退避はいけませんよ?」
スカーレットは相手が人形でなければ恐らく畏怖の念を感じるものであろう、“微笑んではいないがどこか楽し気な表情”をしてそう言った。
対するルクスの人形は無表情のまま、傷口から広がる炎を天力に変換させず、混沌をそのまま使って鎮火させた。
スゥ・・・
ルクスの人形は姿を消した。
「おや・・・結局“それ”ですか?がっかり・・・」
スカーレットが言い終えるより早く、ルクスの人形の不可視の攻撃が襲来した。
“紅電・陽炎”
シシシシシシシシシシンッ!!!
不可視の超高速連続攻撃。スカーレットはその全てを当然のように刀一本で受け流し切って見せた。そして、次に迫って来た一撃を先読みし、瞬時に態勢を低くし、水面蹴りでルクスの人形の足を払った。
ドンッ!
目には見えないが、ルクスの人形の足を払った事は明白であった。超高速で駆けていた分、ルクスの人形は凄まじい勢いで宙を舞う。スカーレットはそこへ追いつき、渾身の力を籠めた刀を振り下ろす。
“カルデラ”
キュドォォン!!!
不可視のルクスの人形にスカーレットの刀は確かにヒットした。




