第326話:人形の限界
力域・内開式の効果により、口に魔力を充填する速度は通常時よりも遥かに早かった。
カッ!!!
サタンの人形の口から漆黒の光線が放たれ、グレイプニルが埋まる壁に一瞬で到達する。光線が通った後の空間は揺らいでいる。
キュゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
光線が当たった地点を中心に漆黒の魔力の爆発がドーム状に広がり、奈落の壁に巨大なクレーターが形成された。そのクレーターの中は空間が歪み、中心地には一時ではあるが“次元孔”のような空間の穴まで作り出されていた。
サタンの人形は終わったな,といった雰囲気を醸し出したかと思うと、その視線を底で傍観しているサタンに向け、瞬時にサタンの背後を取り、拳を振りかざす。
“コンヴィクション”
キュドンッッ!!!
サタンの人形は突如発生した上部からの凄まじい力によって地面に埋没した。
「フン。」
サタンは呆れたような鼻息を鳴らすと、黒い魔力の靄のようなものを残し、一瞬でその場から数十m離れた場所に移動していた。
「失礼、サタン。」
グレイプニルはサタンにひとつ謝罪すると、埋没した地面から放たれる漆黒の光線を避ける。避けられた光線は奈落の壁に当たり、そこに先程より二回りほど小さいクレーターを作った。
バッ!
地面より勢いよく飛び出したサタンの人形はグレイプニルに怒涛のような猛攻を仕掛ける。
ボッ!!ゴォ!!ブン!!ドンッッ!!!
拳で打ち、蹴りを放ち、身を翻しつつ翼を振るい、踏み付けで大地を砕く。その1つひとつの攻撃が空間を歪ませ、大気を振るわせる。だが、そのどれもがグレイプニルには当たらなかった。
「残念だ、過去のサタン殿を模した人形・・・。人形である貴様には当然の事でだが、“闘いの中での成長”がないのだな・・・。」
グレイプニルはがっかりした様子で、同時に分かっていたようにそう呟いた。サタンの人形は更に攻撃を重ねるが、グレイプニルには当たらない。
ズバン!!
それどころか、攻撃の間隙に斬撃を食らわせる程の余裕があった。サタンの人形の腹筋に付けられた斬り傷から混沌が漏れ出る。しかし、サタンの人形は怯むことなく、攻撃を続ける。
ブン!!ズバ!!ゴォ!!ズバ!!ブオン!!ズババン!!ズバン!!!
この闘いの中でサタンの人形の攻撃を見切ったグレイプニルは攻撃を躱すと同時に斬り、受け流すと同時に斬り、いなすと同時に斬った。そして、全ての攻撃の隙間に斬撃を“挟み込まれた”サタンの人形が流石にたじろいだ瞬間、連撃が叩き込まれた。
“サエヴァ・スプリティウマ”
ザザザザザガガッ!!ザザザザガッ!ザザンッ!!!
サタンの人形は斬り刻まれながらも何撃かはガードしていた。それでも、全身に刻み込まれた刀傷は夥しく、混沌の流出は激しかった。更にそこへグレイプニルの追撃が襲い来る。
“クレマティオ・スプリティウマ”
ザカッッ!!
この居合斬りをサタンの人形は魔力を纏わせた両腕で防御したが、グレイプニルは即座に次の技を放つ。
“カルケル・クラヴィス”
シュドッ!!
サタンの人形が閉ざした両腕の間に長剣が刺し込まれ、首が貫かれる。首を貫く長剣をそのまま振り下ろす。
ズバァン!!
首から腹部までが深く斬り裂かれた。
“サエヴァ・スプリティウマ”
サタンの人形に反撃する間を与えず、冷酷な連撃が刻み込まれる。
ザザザザザザザザザザザッ!!!
サタンの人形は全身傷だらけになり、混沌が再生するためにほぼ全身を覆っていた。だが、グレイプニルは手を緩めなかった。また、サタンの人形自身も戦闘を中断する気配はなかった。
“デケムトリア・モルス”
サタンの人形の周囲に12本の魔力の長剣が出現した。
「感じるぞ?サタン殿の人形・・・貴様、限界が近かろう?ずっと感じていたぞ。貴様は我の剣を受けずとも、“自身の攻撃によってその身に宿る力を消耗している”とな。サタン殿ほどの存在を再現するのは生中な事ではないのだろう。」
サタンの人形は黙れ!,と言わんばかりにグレイプニルに殴り掛かる。
“デケムトリア・モルス・スプリティウマ”
12本の長剣が一斉にサタンの人形に突き刺さり、動きを封じた。
「中々楽しめた、礼を言うぞ。」
ザァン!!!
グレイプニルが持つ長剣がサタンの人形の首を刎ねた。同時に、サタンの人形の身体も飛んだ首も黒い靄となり霧散した。
奈落の底の追憶の人形・・・撃破




