第325話:歓喜の死闘
魔界・奈落の底
「力域・内開式・・・。古のサタンも扱えたとは、恐れ入る。」
そう語るグレイプニルはサタンの人形の連打を避け、サタンの人形の背後から間合いを取った位置に浮いていた。
「フン、当然の嗜みよ。」
ここまでの激闘の中、何事もないように傍観を続けていたサタンはそんな事で驚くな,と言わんばかりに吐き捨てるように言った。
「そう・・・闘う者であれば、当然の嗜み・・・!」
グレイプニルは嬉しそうに不気味な笑みを浮かべ、グレイプニルは力域・内開式を発動させた。周囲に放たれていたグレイプニルの殺気が一瞬でその身の内に集約された。
「ここからが真の死闘だなァ・・・!」
グレイプニルとサタンの人形は同時にその場から消えると、その直後、正面から激突した。
キュドォォォォ!!!バリバリビキビキッ!!
内開式を発動させた2人の激突により、空間の歪みと尋常ならざる衝撃波が発生した。その衝撃波の威力は、奈落の直径を広げるほどのもので、更には奈落に収まりきらない衝撃波が奈落の“口”から上空に放たれ、魔界全域に立ち込める暗雲を貫き、魔界特有の“漆黒の空”が垣間見えた。
ギギギギギッ・・・!!
グレイプニルの長剣とサタンの人形の魔力で覆われた拳はしばらく鍔迫り合った後、互いの攻撃を弾き、共に連撃の勝負に移行した。
“サエヴァ・スプリティウマ”
ガガガガガガガガガガガガガガッ!!!
グレイプニルの腕は最早常人の目では消失して見えるほどの超高速で長剣を振るっていた。一方でサタンの人形もまた、上半身がブレた写真のように見えるほど凄まじい速さで拳を打ち出していた。連撃の一撃一撃が放たれる度、周囲の空間の歪みは大きくなり、豪雨に打たれる水面のように2人の姿は歪んで見える。また、連撃の一撃一撃がぶつかり合う度に衝撃が飛び散り、奈落の壁や床を穿ち、抉り、削り、切り裂く。この衝撃は傍観しているサタンにも飛来するが、サタンは仁王立ちの姿勢を崩さず、纏う魔力の壁で衝撃を防ぎ無効化していた。
連撃を打ち合う最中、グレイプニルは終始笑っている。
「イイ!イイぞ!!こんなに楽しいのは何時ぶりだろうか!人形よ、貴様に解かるか?この楽しさ、この嬉しさが!この本気で打ち合える喜びが!!全力を振るっても終わらない相手と出会えた感動が!!!」
ガギンッ!!
互いに連撃を弾き合い、少し間合いが開く。だが、双方ともにすぐさま次の技を放つ。
“クレマティオ・スプリティウマ”
グレイプニルの放つ居合斬りに対し、サタンの人形は濃縮された魔力を纏った蹴りを放った。
キュドォォォ!!!ビキビキビキッ!!
奈落の直径が更に少し広がり、閉じかけていた天空の暗雲に再び孔が開けられ、時空そのものが揺れているかのような地響きが起きる。
ギギギギギ・・・!ジジ・・・!
再び鍔迫り合う2人であるが、今回は突如サタンの人形がグレイプニルの長剣を受け流し、鍔迫り合いを強制的に終わらせた。サタンの人形は後退しつつ、羽撃きによる魔力の斬撃を飛ばす。
「下らん!かつてのサタンは斯様な真似をしたと・・・!?」
ズバン!!
グレイプニルはいとも容易くその斬撃を斬り裂くと、再び間合いを詰めようと前に出る。
ボッ!!!
そこへサタンの人形の回し蹴りが顔面を目掛けて襲ってきた。先の魔力の斬撃は囮だったのである。だが、グレイプニルは寸での所で回し蹴りを避けた。ところが・・・。
ドンッ!!!
その回し蹴りもまた囮。本命は今しがたグレイプニルの腹に放たれたボディーブローであった。
キュドンッ!!
グレイプニルは奈落の壁に叩きつけられ、20mほど埋没した。
「グッ!」
埋没させられた壁の中で吐血するグレイプニル。そこへ容赦ない追撃が用意されていた。
ゴオオオオオオ!!
サタンの人形は口に魔力を充填していた。




