第319話:美雷VS美鳥と疾風の人形
流界
おばさんが柴犬を散歩させている。とこしえ荘の前で柴犬が足を止め、とこしえ荘の敷地の方をじっと見つめる。小便を始めると思ったおばさんはリードをクイックイッと引っ張り、歩みを促す。柴犬はそれに従って再び歩き始めた。
とこしえ荘敷地内の広場
“【追憶】閃の不知火”
キュオッ!!
不知火の閃光が飛ぶ。美雷はこれをバク宙で回避し、着地する。
“とこしえ荘防衛術・其ノ壱【砦】”によって、とこしえ荘自体が守られ、戦闘中に美雷が発動させた“とこしえ荘防衛術・其ノ弐【城】”によって、とこしえ荘の敷地周辺に結界が張られ、敷地内の様子は外部からは見えない上に聴こえなくなっていた。加えて、この結界には何となく中に入る気がしない,という効果もある為、このとこしえ荘敷地内での戦いは周辺住民には全く知られる事のない戦闘となっている。
着地した美雷の背後に、“疾風の人形”が不知火の刀を構えて立っている。振り降ろされた刀が美雷の背に襲い掛かるが、刃が背に触れるよりも早く、美雷は疾風の人形の背後に移動していた。
“雷鳥空手・穿電”
とこしえ荘の新大家・雷鳥の美雷は妖界に数多存在する武術(空手、柔道、剣道、合気道等々)を雷鳥流にアレンジした戦闘術“雷鳥式武術”の使い手である。美鳥に命を救われた後、美鳥を護るため、美鳥の傍にいるために体得したものであった。本来ならば“破滅の不死鳥”との戦いで使いたかった技術であったが、美鳥からの言いつけによってそれは叶わなかった。代わりにその破滅の不死鳥を模した存在に技の数々を振るう事になったのは、何らかの因縁を感じざるを得ない。
ズドォ!!バリバリッ!
疾風の人形の背中から胸へ、雷を纏った美雷の手刀が貫いた。傷口からは不知火ではない黒い靄のようなもの・混沌が噴き出す。すぐに“美鳥の人形”が駆け付け、美雷を牽制するように不知火の閃光を放つ。疾風の人形から手を引き抜いた美雷は、それを事も無げに避け、電の速さで美鳥の人形の腹に拳を放つ。
“雷鳥空手・直流突き”
しかし、皮肉な事に、美鳥を護るために磨き上げてきた技術を、美鳥を模した存在に振るわなければならないのは、美雷にとっては苦悶を越えて、憤りを覚える状況であった。
ドォン!!バリバリッ!
美鳥の人形の腹部を目掛けて放った雷を纏った美雷の拳は、疾風の人形の不知火で形成された盾に阻まれていた。
「またですか・・・。」
美雷と美鳥の人形、疾風の人形との戦いが始まって十数分、美鳥の人形に放った攻撃の全てが疾風の人形によって阻まれていた。
「・・・絵画でしか見た事はありませんが、疾風殿の姿を模していると思しき貴方は、“破滅の不死鳥”たる疾風殿ではなく、“護りの不死鳥”時代の疾風殿を再現している様ですね。恐らくは美鳥様の姿を模した其方も、“彼の者”を封印する前の美鳥様・・・私と出会う前の美鳥様を再現している・・・。」
美雷の言葉に2つの人形が応答することはない。
「・・・それにしても不快です。美鳥様の姿を模しているだけでも忌々しいものを・・・なぜ貴女の術が放たれる時だけ、その術名が脳裏を過ぎるのか・・・。だからといって戦闘に支障はありませんが。」
冷徹な眼光を光らせた次の瞬間、疾風の人形の懐に美雷は飛び込んでいた。
“雷鳥空手・逆雷”
ドォン!!バリバリッ!
疾風の人形の顎に、稲妻が遡るが如きジャンピングアッパーが炸裂し、疾風の人形の身体は宙を舞った。バチッという電音と共に美雷は姿を消し、宙を舞う疾風の人形の更に上に移動していた。
“雷鳥柔術・雷落とし”
バァン!!バリバリッ!
雷が落ちる時のような一瞬で、美雷は疾風の人形を掴んだまま急降下し、地面に叩きつけていた。
“【追憶】剣の不知火”
美鳥の人形が不知火で形成した刀で美雷に斬りかかるが、美雷は瞬時に美鳥の人形の背後に移動し、刀を持つ手を掴む。
バリバリバリッ!!
途端に美鳥の人形の身体に電流が迸り、その場に膝を着く。
「【追憶】・・・なるほど。」
美雷は2人の不死鳥を見下ろしながら何かに納得したように話を始めた。




