第318話:奈落の底の戦い
「くだらん、その程度か!?過去のサタンは!」
サタンの人形の羽撃きによる魔力の斬撃を弾き飛ばしたグレイプニルが間合いを詰めにかかる。
ボボボボボボボボボッ!!
サタンの人形は両の拳を高速で幾度も振るい、無数の魔力の拳圧を飛ばしまくる。グレイプニルはこれを事も無げに躱し、いなし、弾き、斬り裂き、徐々に距離を詰めていく。
「こんな小細工が我に通じると?」
次第に迫り来るグレイプニルに、サタンの人形は右拳を大きく後ろに引き、全力で放ち、巨大な魔力の拳圧を飛ばした。それは全長10m、直径3mを超え、大地を抉りながらグレイプニルに向かう。
“クレマティオ・スプリティウマ”
グレイプニルに一瞬で通過された巨大な魔力の拳圧は、上下に分断されており、そのいずれもが炎上し、消えていった。そして、グレイプニルのこの一撃は、サタンの人形との距離を一気に縮めていた。が、サタンの人形はそれが狙いであったかのように既に左拳を振り上げていた。
キュドォン!!!
サタンの人形の振り下ろされた拳は、地を穿ち、奈落の底一帯に亀裂を入れ、砕き散らせた。しかし、サタンの人形の拳にはグレイプニルを捉えた感覚はなかった。
“コンヴィクション”
ザァン!!!
縦に一閃。サタンの人形の左半身を剣閃が斬り裂いた。こめかみから生える左角は落ち、斬り裂かれた胸部から脇腹にかけて、膨大な混沌が溢れ出し、そのダメージの大きさを物語っていた。グレイプニルはサタンの人形が拳を振り下ろす一瞬の間に、既に頭上へと移動していたのである。
この急襲には流石のサタンの人形もたじろいでいる。
「終いにするか?」
“ガリゾント・フォリスモス”
たじろぐサタンの人形に、目にも止まらぬ速さの横一回転斬り。だが、今度はグレイプニルの手にサタンの人形を捉えた感覚がなかった。
奈落の底から20m程度上空。そこにサタンの人形は瞬時に移動していた。そこで、口に魔力を集めていた。
「フッ・・・まだ終わらぬよな?」
闇に包まれた顔で不敵な笑みを浮かべるグレイプニルに、サタンの人形の口に集まった魔力は放たれた。
カッ!!
大気が、瘴気が震えるような高濃度な魔力の光線であった。グレイプニルはこの光線を正面から居合斬りで受けるべく跳躍する。
“クレマティオ・スプリティウマ”
ガガガガガガガガガガガガガガ!!!
光線と居合。異なる2つの攻撃が鍔迫り合い、それによって生じる魔力の衝撃波が奈落の底や壁面を砕いていく。
ガガガガ・・・ドォォン!!
鍔迫り合いの果て、大爆発が起き、粉塵と魔力の残滓が仁王立ちで見ているサタンを含めた周囲を包んだ。
やがて粉塵が晴れると、そこには光線を放つ前と同じ様相のサタンの人形が宙に浮かんでいた。グレイプニルの姿は見えない。当然だろう。
「貴様の背後にいるのだからな。」
サタンの人形は瞬時に振り向こうとしたが、先に翼を横に薙がれ、斬り落とされた。グレイプニルは周囲に飛散していた粉塵によって姿を、魔力の残滓によって気配を消していたのである。
翼を斬られた衝撃を受けるも、サタンの人形はそのまま振り向きざまに裏拳を振るう。グレイプニルはその裏拳を振るう腕を刎ねんと長刀を振るう。
「!!?」
キュドンッ!!
気付けばグレイプニルは奈落の壁面に叩きつけられていた。
「ガッハ・・・!」
吐血するグレイプニル。更にそこへ超高速のサタンの人形の猛追が襲い来る。
バリバリバリバリバリッ!!!
サタンの人形の放つ連打を受けた壁面は抉れに抉れ、直径10m、奥行き25mの大穴を作り上げていた。
「力域・内開式・・・。古のサタンも扱えたとは、恐れ入る。」
「フン、当然の嗜みよ。」
ここまでの激闘の中、何事もないように傍観を続けるサタンの言葉に、グレイプニルが返す。
「そう・・・戦う者であれば、当然の嗜み・・・フフフッ!」
闇の中に浮かぶ不気味な笑みと共にグレイプニルも内開式を発動した。
申し訳ありません、次週は休載致します。
次回投稿は9月3日となります。




