第317話:グレイプニルVSサタンの人形
同刻
魔界・奈落の底
真っ黒なローブに真っ黒なフードを被った闇を体現したようなグレイプニル。
憤怒と憎悪と復讐心に歪んだ相貌にこめかみから生えた黒い大きな角と悪魔を思わせる翼。加えて隆々の躯体に腰巻きを巻いただけのサタンの姿に変容した“黒い塊”・・・“サタンの人形”。
両雄の戦いの火蓋は既に切られていた。オリエンス王国王である本物のサタンはその様子を仁王立ちで傍観している。
“ソリテュード・エクスプルシオ”
魔力を纏わせた長刀を袈裟懸けに一閃させるグレイプニル。だが、サタンの人形はこれを魔力を纏った手で掴む。そして、そのままグレイプニルごと持ち上げ、自身の体を何回転もさせてブン回し、そのまま奈落の壁面へと投げつけた。しかし、壁面へ叩きつけられるはずであったグレイプニルは壁面に着地する。ズドンッ!!!,という轟音と共に着地した壁面にクレーターが出来た事がその威力の凄まじさを物語っていた。が、そんな衝撃も意に介する事無く、素早く反撃に転じるグレイプニル。超高速の突きがサタンの人形の右目を狙う。これに対し、サタンの人形は魔力を纏った拳を放つ。
チュドッ!!バキバキバキバキ!!
両者の放った攻撃がぶつかり合い、衝撃波が奈落の底に罅を入れ、壁面を砕く。やがて、力負けしたグレイプニルが吹き飛ばされる。
ドカァン・・・!
今度は着地できなかったグレイプニル。ガラガラと崩れ落ちてきた奈落の壁の破片に埋もれてしまった。その様子を確認したサタンの人形は、振り返り、仁王立ちで傍観する“本人”へと牙を剥く。
ザンッ!
一瞬でサタンの目の前まで移動したかと思うと、魔力を纏わせた拳を既に放っていた。
ドカァァン!!
サタンの人形の拳はサタンに届いてはいなかった。魔力のバリアのようなものに阻まれていたのである。
「フン・・・。自ら言った“追憶の人形”という呼称、芯を食っていたようだな。」
パチンッ!
サタンが指を鳴らすと、サタンの人形は吹き飛び、グレイプニルが埋まった壁の少し横の壁に激突した。
「貴様は魔界に来て間もない頃の我を再現した人形であるな・・・そう、丁度“彼の者”と共に居た頃の我だ。まだ魔力の扱いを知らず、術の類など知りもしない、単純に纏う・放つという使い方しか知らなかった頃の我。・・・貴様はそれしか出来ないのであろう。“彼の者”が知っている、“彼の者”が見た、“彼の者”の記憶にある技しか行えない。まさに“追憶の人形”よ。」
黙れ,と言わんばかりにサタンの人形は再びサタンに襲い掛かる。
“セペリエンドゥム・スプリティウマ”
キュドン!!
サタンの人形はたちまち地面に叩きつけられた。
「貴公の相手は我であろうが。」
破片に埋もれていたグレイプニルがサタンの人形の頭上から太刀を叩き込んだのであった。うつ伏せに倒れたサタンの人形の前に立つグレイプニルはフードを取っていた。そこに見える素顔は、首から頭頂部まで目鼻立ちも分からない闇に包まれていた。闇に覆われた髪の毛が揺らめくように逆立ち、双眸だけが白く光っている。それが、グレイプニルの本来の姿・妖態であった。
「さて、第2ラウンドと行こうか?」
シュバッ!
一瞬で飛び上がったサタンの人形はそのまま回転蹴りをグレイプニルに放つ。これに合わせるようにグレイプニルは胴回し回転蹴りを放ち、互いの蹴りがぶつかり合う。
ズガンッ!!
衝撃波が2人の蹴りがぶつかった真下に窪地を生む。両者とも譲らず、力が拮抗する中、サタンの人形が先に行動に出る。後退すると同時に翼を羽撃かせ、魔力の斬撃を飛ばした。
ギギンッ!!
グレイプニルはこれを事も無げに長刀で弾き飛ばす。その長刀もまた、闇に染まっている。
「その程度か?もっと魅せよ!貴公の力ッ!」
グレイプニルが間合いを詰めにかかる。




