第315話:初代王の力域
天ヶ崎と初代妖王の人形との戦闘が始まった頃。
妖界・サンクティタス王国・貴族院正門前
貴族院の正門前は石畳の広場となっており、中央には大きな石造りの噴水がある。否、あった。その噴水は飛来してきた黒い塊によって粉砕されていた。そして今や、その黒い塊は初代サンクティタス国王兼初代貴族院長ルクス・ゼウス・サンクティタスの形へと変容し、サンクティタス王国軍大将スカーレット・ジャヌア・ガーネットの前に立っていた。
その容姿は190㎝程度長身に眉目秀麗な顔立ち、ウェーブしたセミロングヘア。第2ボタンまで開けたワイシャツにジーンズというカジュアルな服装をしているが、左手には両刃の長剣を携えている。それは、サンクティタス王国に多く存在する“初代王の肖像画”の中でもとりわけ多く描かれている姿そのものであった。但し、全身の色が白黒である事を除いて。
「さしずめ、初代王の人形といった所でしょうか?それとも本当に初代サンクティタス王なのでしょうか?」
スカーレットは特に焦る事もなく、冷静に“ルクスの人形”に訊ねた。その返答は・・・。
キィィィィィ・・・!
ルクスの人形は居合抜きの構えで長剣に天力を集中させ始める。同時に、広場全域に淡い光の靄のようなものが立ち込め始める。
「それが回答え、という事でよろしいのですね?」
敵対の意思があると認識したスカーレットも腰に差した刀に手をかけ、居合抜きの構えを取る。
キィィィィィン・・・!!
長剣への天力の充填が完了したと思しき瞬間、ルクスの人形は一回転し、その回転の威力も乗せた巨大な天力の斬撃をスカーレットに飛ばした。
オオオオオオオオオオ・・・!
周囲の気温が上昇し、少し石畳が揺らいで見える。それはスカーレットの“力域”が展開された事を意味していた。
“日没”
抜刀の瞬間が見えない。ただ既に刀を振り終えたスカーレットの姿がそこにあり、ルクスの人形が放った天力の斬撃が巨大な深紅の斬撃によって打ち消されているという事実が残されていた。迫りくる深紅の斬撃を、前宙でその上を飛び越えて躱したルクスの人形。
フワ・・・
前宙から着地する前に、ルクスの人形は何の音もさせずに姿を消した。スカーレットは周囲の気配に集中するが、周囲に立ち込めている光の靄のようなものによって何物の気配も感じ取る事が出来ないという事態に気付く。
「なるほど、これが初代王の“力域”ですか。」
姿も見えず、気配もしない敵に対しても、スカーレットは平然とその場を動かずにただ突っ立っていた。
フッ・・・!
背後。スカーレットは背後に突如発生した風切り音に10000分の1秒か100000分の1秒かで反応し、振り返りざまに袈裟懸け斬りを放った。
ガキィィン!!
何も見えない空中でスカーレットの刀はルクスの人形が持つ長剣に当たり、止まっていた。コンマ数秒遅れて周囲に高熱を伴う衝撃波が放たれ、ビキビキッ!と、石畳の一部に罅が入る。
「なるほど。貴方の“力域”の効果は“光の屈折”ですね?この周りに漂う光の靄のようなものは光を屈折させ、貴方の姿を消している。加えて、天力の気配を覆い隠し、気取られない効果も有している。中々に面白い能力ですね。ただ・・・。」
“紅電”
スカーレットは超高速の剣戟を放つ。姿が消えているルクスの人形はこれをギリギリで捌くが、堪え切れずに後退した。
「姿と気配は隠せても、音は隠せないようで。移動音は上手く隠しているようですが、剣を振るった際の風切り音は隠せておりません。初代王の生きた時代には今の奇襲攻撃を捌ける者が居なかったという事でしょうか?」
スカーレットは何処か楽しそうな表情で、ルクスの人形の次の一手を待っていた。




