第312話:白き烏天狗
ミネルヴァの“力域・内開式”発動の少し前。
護国院・司守の間
半妖態となり、背から白い翼を生やした天ヶ崎は筋骨隆々の2mを超える体躯を持つ初代妖王を模った“人形”の頭上に位置取り、刀に“神通力”を纏わせる。これにより、相手が纏っている妖力や術などを無視して斬りつける事が可能となる“神通刀”となる。
“神通刀・白落雷”
高速で頭部から真っ直ぐに斬り結ぶ。だが、初代妖王の人形には額に掠り傷が付くだけで、その傷もすぐに混沌によって修復された。
初代妖王の人形が、その手に持つ大振りの刀を振るって反撃してくる。そのひと振りは、刀身に当たらずとも巻き起こされた旋風によって態勢を保っておくのがやっとという状態である。それこそが初代妖王の“力域”の効果。即ち、“力域”内に自然現象(災害)を呼び起こす力であった。天ヶ崎はこれを幾度か回避しては隙を見て一撃を見舞う,という事を繰り返していたが、向こうの攻撃が当たらずとも、こちらの攻撃は当たっても微弱なダメージしかないという絶望的な状況に置かれていた。
「よもや“白き烏天狗”たる我が力を以ってしてもこうとは・・・。」
天ヶ崎は“烏天狗”という妖であった。それも希少種の“白い烏天狗”である。その力は通常種の烏天狗の2~3倍とも言われており、その力で護国院長の側近の座を実力で手にしたのである。
スゥ・・・
初代妖王の人形が刀を振り上げた。そこに雷が落ちる。一瞬その場が閃光に包まれ、同時に初代妖王の人形は刀を振り下ろしていた。雷の刃が宙を飛び、天ヶ崎を斬り裂いた時、天ヶ崎の体はボンッ,と煙を上げ、白い羽が舞った。
“空蝉の術【白烏天狗】”
既に天ヶ崎は自身の分身を戦わせていたのである。ガラ空きになった初代妖王の人形の背後に、渾身の一撃を見舞う。
“神通刀・白閃乱舞”
一瞬で初代妖王の人形を背後から前方へ斬り抜けた。その後、初代妖王の人形を無数の斬撃が襲う。
ザザザザザザザザンッ!!
「!」
不意に天ヶ崎が身を翻す。初代妖王の人形が天ヶ崎の連続で見舞われる夥しい斬撃を受けながら刀を振るってきたのである。
「くっ!白閃乱舞でも駄目か・・・!」
ドヒュウウ!!
初代妖王の人形の一撃により生じた旋風が身を翻した天ヶ崎を吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「くっ・・・!」
ミシミシと、司守の間自体に限界が近づいている音がする。そして、天ヶ崎にも凶刃が迫る。
ザンッ!!
初代妖王の人形による斬り上げ。壁の斬られた部分は消し飛んだが、天ヶ崎はギリギリで躱していた。
ドヒュウウウ!!
「!!!」
その斬り上げによって発生した強烈な上昇気流。天ヶ崎の身体は宙に舞い、司守の間の上空へと投げ出される。
ピシャッッ!!!
初代妖王の人形が“呼んだ”落雷が上空にいた天ヶ崎を襲った。
“神通力纏い”
天ヶ崎はその身に“神通力”を纏う事で、落雷に対する鎧としたのである。物理的な攻撃への効果がないが、今の落雷のようなものであれば、身体に当たる前に神通力によって雷が歪み、身体の外側を通過していく事になる。よって、天ヶ崎は落雷に撃たれてはいなかった。
“神通刀・白鷲”
天ヶ崎は上空から一気に急降下し、初代妖王の人形に強力な一撃を見舞いに行った。
ガキィン!!
「なにっ!!?」
それまで攻撃を受け続けていた初代妖王の人形が天ヶ崎の攻撃を刀で弾いたのである。
ガッ!
そのまま初代妖王の人形の左手に首を掴まれる天ヶ崎。
“神通刀・・・”
ドキャッ!!
天ヶ崎は何かする前に地面に叩きつけられた。
「ぐはっ・・・!」
その“叩きつけ”の凄まじい力に血を吐く天ヶ崎。その首に刀を翳す初代妖王の人形。もう貴様は終わりだ,とでも言わんばかりの風情である。初代妖王の人形が刀を振り上げたその時。深紅の鬼が突進し、相撲のように初代妖王の人形の腰巻を掴んだ。
「!・・・お前は・・・難波の式神!」
難波が手配した増援が到着した。




