第311話:力域・内開式
数分前
和神に20本を超える“彼の者”の混沌で形成された腕が襲い掛かる。この“混沌の腕”は、触れればその部位を削り取る恐るべき凶器である。和神は既に、掠めた脚や腕、背中などの一部を削り取られていたが、不死鳥の能力がすかさず治癒し、再生させていた。しかし、体を混沌の腕が掠めていく度に何か力が奪われる感覚を和神は覚えていた。同時に、何か違う力が自分の中に混ざるような感覚も。
ピタッ・・・
まただ,と和神は思う。“彼の者”の動きが止まったのである。これは、戦闘中に不定期に何度も起こっていた現象であった。攻撃タイムと言わんばかりの動作の停止に、初めこそ罠かとも思ったが、“彼の者”が攻めている時にもこの動作の停止は起こるため、停止する度、和神は容赦なく攻撃を加えていた。
“不知火剣”
不知火で不格好な剣を作り出し、“混沌の腕”を数本斬り落とし、“彼の者”本体にも斬撃を浴びせる。すり抜けているような感覚はない。しっかりと斬りつけている感覚が和神の手に伝わっている。
「!」
そしてこの時、初めて和神は自分の中に混ざって来ていた“別の力”を使えるようになっている事に気付く。試しに拳に纏わせてみる。
ドォォ・・・
それはどす黒い感情になるような、そんなオーラを放つ力であった。それは“彼の者”が纏っている“混沌”そのものであった。
「やっぱり、これも受け容れてたんだ・・・。」
和神は静かに拳を固める。手段は選んでいられない。もし使えて、有効ならば、負の感情が集まって生まれたという力でも、使わない手はない。和神はそう考え、実行に移した。
“混沌拳”
ドッッ!
吹き飛びはしない。だが、何か今までにはない手応えのようなものがあった。“彼の者”が効いている,というような反応をしているように見えたのである。
「よし・・・!」
と、和神が更に攻撃しようと構えた時、狗美がやって来た。
「和神!あっちの龍が何かデカい攻撃を仕掛けてくる。一時退避しろ。無駄に不死鳥の回復力を使わない方がいい。」
「でも今ちょうど・・・。」
カッ・・・!
和神の言葉の途中で眩い閃光が周囲一帯を包んだ。閃光は妖王・無限のいる方角からではあったが、妖王の攻撃が発生源ではなかった。閃光の発生源は、4枚の翼。ミネルヴァが“アークエンジェルアローサル”で展開している天力で形成された4枚の翼が、いつもよりも1.5倍ほど大きく、かつ力強く輝いていた。しかし、いつもミネルヴァから感じる高貴なオーラのようなものは感じられなくなり、代わりに“凄み”のような何かが感じられた。
「ミネルヴァさん・・・?」
『流石私が見込んだ娘♡成功よ。』
周囲に放っていた“力域”による高貴なオーラを、自身の“器”の中へ展開させることに成功したのである。即ち・・・。
“力域・内開式”
カッ・・・!
成功の直後、放たれた妖王・無限の攻撃は、力が凝縮された直径30㎝ほどの白く光る球体であった。それが時速50㎞ほどの速度で窪地の中心地に向かっていた。
「行きます・・・!」
“アイギス”
ミネルヴァが繰り出せる最高の盾。それは、破滅の不死鳥・イックスに対しても用いた事があったが、それとは比べ物にならないほどに大きく、堅牢になって展開された。
ガガガガガッ・・・!
妖王の放った球体と“アイギス”が接触し、妖王の放った球体は膨張するように爆発していく。
「はぁッ!!」
ミネルヴァは“アイギス”を振るい、妖王の攻撃を天空へと吹き飛ばした。曇天に妖王の攻撃による爆発が弾け、空が束の間の晴れ間を見せた。そこから射す日差しに照らされて、ミネルヴァは大天使そのもののように見えた。
「“力域・内開式”・・・。そういう技術があります。」
ミネルヴァは天からの啓示のように狗美や陽子たち皆に“力域・内開式”の情報を教えた。




