第310話:集中
「・・・それでも、やらなくては。大天使様がそれをお教え下さったのは、それしかこの操られた王族たちに勝つ術がないからですよね?」
ミネルヴァの視線の先には操られた王族の当主たちに苦戦する狗美たちの姿があった。
『物分かりのイイ娘ね。好きよ、そういう所。幸い、貴女は“アークエンジェルアローサル”を行使していて、その身体には私の天力が宿っているから、手伝ってあげる。ほら、ちょうど貴女にも追撃が来たわ。』
空中にいるミネルヴァに王族3名が襲い掛かって来ていた。2名は事も無げに蹴散らしたが、1名、蹴散らせなかった者がいた。ミネルヴァの剣を妖力で形成した剣で受け止めていた。
「この方は・・・。」
『そうね。その王族は長ではないながら、“内開式”が使えるようね。試すには丁度いいわ。』
ギン!キンッ!ギン!!
ミネルヴァと“力域・内開式”が扱える王族が切り結び、再び鍔迫り合う。
『自分の中に“力域”を広げる意識をするのよ。貴女の“器”に“貴女”を満たす意識。足りない部分は私が補うけれど、半分は貴女の意思がなくては成立しないわ。』
「はい・・・。」
ガッ!ギン!ギン!ボウッ!!
ミネルヴァの意識が“内開式”の発動に集中した隙に王族は剣を弾き、剣戟で攻めた後に手から火炎を発生させた。ミネルヴァはこれを辛うじて躱しきる。
「戦いながらに集中するというのは・・・。」
『戦っている間もその意識を持続させていないと“内開式”を戦いに使う事は出来ない。ほら、集中なさい。目の前の戦闘にも、自分の“力域”の在り様にも。』
「ッ・・・!」
(初めて使う技術ですが、時間はかけられない。時間をかければかけるほど皆さんが消耗していくだけ・・・。私1人でも“内開式”を発現させなければ・・・!)
ミネルヴァの中に焦燥が広がる。それは“内開式”から遠ざかる事を意味していた。大天使はそれを見透かしている。だが、何も言葉はかけない。その焦燥を消し去る事は、少なくとも大天使である自身には出来ないという事を識っているからである。そんな状況に追い打ちをかけるように強大な気配が窪地の外縁上空から放たれる。
ザッ!
ミネルヴァと戦闘中だった王族が急に退く。他の戦闘中の王族たちも一斉にその場を飛び退き、外縁へと移動する。狗美は退いた絲角に追撃を仕掛けるが、捌かれ、反撃に遭い、逆に吹き飛ばされてしまう。
「くっ・・・!」
狗美が視線を戻した先には結界を展開する王族たちの姿。そして、その上空に口に凄まじい量の“力”を集中させている昇龍の姿があった。妖態の妖王・神龍院無限である。大気・大地・空間さえ震えているように感じるほどの膨大な妖力・霊力・天力が無限の口に集まっていた。
「ヤバ・・・。」
サラが思わずそう口にした時、無限の更に上空から風で形成された無数の武器が急激な下降気流に乗せられて凄まじい勢いで急襲した。
“風武百連陣・ダウンバースト”
ガガガガガガガガガガガガガガ!!!
「フウちゃん!」
喜ぶサラであったが、無限の頭部や背に叩きつけられていく風の武器の悉くが弾かれて砕けていく。無限は何事もないかのように力を溜め続ける。フウの存在に感付いた獣悟が大剣で襲い掛かる。
「くっ・・・!」
無限の“それ”を止められる者はいなかった。
「みなさんこちらへ!」
陽子の呼びかけで皆が1ヵ所へ集まる。
“三十重盾結界”
“十重盾結界”
陽子の30重の結界と陰美の10重の結界、計40層になる結界が陽子、陰美、サラを囲った。
「ちょっと狗美たんは!?」
「和神さんの所へ向かいました。」
サラの声に陰美が答える。一方で陽子が声を上げる。
「ミネルヴァさん!なぜ外に!?結界を解きますから中へ・・・!」
「いいのです。これでいいのです。漸く、集中できます。」
ミネルヴァは、結界と無限の間に、結界を護るように立っていた。
「何言ってんの!?ミーちゃん!」
サラが結界を内側から叩く。
『あの王族で試すつもりだったのに。ホント、想定外な娘・・・フフフ。』
ミネルヴァは無限の口に集められた力が発動する僅かな時間の間、究極に集中した。彼女の生涯で最も集中したかも知れない。
カッ・・・!
眩い一瞬の閃光と共に、無限の口から力が放たれた。




