第308話:操られし王族たち
金剛寺剛氣に蹴りを止められた狗美だが、すぐさま半妖態となって、次の攻撃へ転じる。1秒の間に5発の拳と6発の蹴りを放つ。剛氣は、狗美の攻撃を金棒を持っていない左手だけで防げる分だけを防ぎ、あとはその身に受けた。2mを優に超え、隆々の筋肉を備えており、更に妖態の完全なる鬼の姿をした剛氣に、狗美の攻撃はまるで通じていなかった。
「ッ!金狼も殆ど一撃だったんだけどな・・・。」
自分の膂力に自信を超えて有り余るものさえ感じていた狗美は、その力がまるで通じない相手に動揺する。その動揺の隙をつき、剛氣は金棒を振るった。振るったのだから、振りかぶる過程があったはずであるが、その過程が存在していないかのように、予備動作なしで金棒は横薙ぎで振るわれた。しかし、狗美にはこれが視えていた。瞬時に剛氣の頭上へと跳び、その頭頂部、角と角の間に踵落としを食らわせる。
ズドォン!!!
剛氣の両足が地面に数㎝埋まる。が、その直後、横から巨大な拳が狗美を襲う。
「!」
狗美はこれも瞬時に避けるが、巨大な拳は高速で何発、何十発と猛攻を仕掛けてくる。土地神家当主・絲角である。3mの巨躯、6本の腕から繰り出される巨大な拳の連打は、拳が通過した空間を歪めている。狗美はこれを全て辛うじて避け続ける。
ズガァン!!
空振りした絲角の拳が地面を砕く。周囲の10mほどの地面に罅が入る。狗美はこの拳を跳んで回避しており、前傾姿勢になっている絲角の後頭部に反撃を浴びせるつもりだったが、その眼前に金棒を構えた剛氣が一瞬の内に現れた。
ガッ!
野球のバットのように振るわれた金棒は、魔力で形成された盾で防がれた。狗美と剛氣の間に、サラが割って入ったのである。だが、サラが形成した盾は空間と一緒に歪み、見る見るうちに罅が入り、砕かれ、2人揃って30m以上吹き飛ばされてしまった。
「あんなんチートでしょ・・・!陽子ちゃんみたいに術でじゃなくて、フツーに金棒振るって空間歪んじゃってたよ!?」
「それが王族なんだろ。」
空中で態勢を持ち直した2人に、当主ではない王族たちが追撃を仕掛けてくる。
ババババン!!
“トゥインクルスターズ~輝逝群~”
狗美は拳と蹴りで、サラは無数の魔力の弾丸で容赦なく応戦した。
「他の王族たちはこんな感じかぁ。あの当主?たちがヤバいんだねー。」
「そうみたいだな・・・!下だ!」
2人の直下の地面から凄い早さで巨大な木の根のようなものが伸びてきた。樹福寺家当主・賀繁が、30m以上離れた窪地の外縁から術を行使しているのである。
“天狐ノ氷瀑”
賀繫の上空に氷の結晶が舞ったかと思うと、そこから滝のように極低温の冷気が、大気をも凍らせながら襲い掛かる。しかし、この陽子の術は焔城寺家当主・獣悟の焔の斬撃で溶かされ尽くしてしまう。
窪地の外縁から15mほど離れた空中にいる陽子にも当主ではない王族たちが襲い掛かる。これを陰美と2人、姉妹で迎撃する。陰美は、自身の力では当主たちには到底適わないという事を既に理解していたため、陽子の護衛や当主以外の王族への対処に徹すると決めていた。そんな陰美を水流が包み込む。
「陰美!」
包み込まれた陰美は“停止”している。水奈神家当主・流姫の時を止める水の牢獄である。急ぎ、妹を救出せんと陰美の方に集中した陽子の背後に、流姫は刀を構えていた。
“エクスカリバー”
が、更にその背後にミネルヴァがいた。ミネルヴァの“エクスカリバー”が容赦なく流姫の首元に振るわれた。




