第304話:“彼の者” VS サラ&ミネルヴァ
王土跡の窪地
そこには、妖王と王族当主たちの遺体と、つい先刻飲み込まれた王族たちの遺体が散乱していた。全員外傷は見られず、眠るように死んでいる。
「もっと凄惨なものかと思ったが、血の一滴も垂れていないとは・・・。」
「それが返って恐ろしいというものです。幻術の類、でしょうか。」
陰美とミネルヴァが遺体の状態を見ながら言う。すると、2人が見ていた遺体が浮かび上がる。その遺体のみならず、他の遺体も全て宙に浮かび始める。
「戦うのに・・・気になる・・・でしょ?」
フウが空気を操って持ち上げたのである。そのまま遺体を窪地の外まで運んでいく。
「とにかくさ、アイツ倒しちゃえばイイんでしょ?早いトコやっちゃおーよ。」
サラが窪地の中心に立っている“彼の者”を指さしてあっけらかんと言う。
「妖王が成せなかった事・・・でも、やるしかない・・・か。」
陽子が決意と共に拳を握りしめる。
「で、なんであいつは突っ立ってるんだ?」
狗美が“彼の者”を見て言う。
「罠かな?」
和神が推察するが、サラは構わず駆け出した。
「わかんないけど、動かないなら今がチャ~ンス!」
“デモンズスタイル”
全身にタトゥーのような紋様が現れ、頭に角と背に4枚の悪魔のような翼が生える。サラは初めから全開で臨む。
“サン~太耀~”
走りながら掌にゴルフボール程度の大きさの黒い球体を出現させ、それを“彼の者”へと飛ばす。“彼の者”はゆらゆらと身に纏う“混沌”を揺らめかせるばかりで動くことはなく、サラの飛ばした“サン~太耀~”は直撃した。が、何も起こらなかった。本来ならば小さな黒い球体が命中すると同時に巨大な黒い球体へと変貌し、全てを呑み込むはずであった。だが、小さな球体は“彼の者”の“混沌”に反対に飲み込まれた様子である。
「あっれー?不発?無効化されちゃった?なら・・・!」
サラは臆する事無く次の手に移る。魔力で形成したメイスを大きく振りかぶる。
“トリプルセブン・ホーマー”
目にも留まらぬ速さのスイングで“彼の者”の顔面らしき部分を打ち抜く。周囲には爆発的な衝撃波が発生した。が、“彼の者”は変わらずそこに立ち尽くしていた。
「ひぃ~、効いてないよォ~!」
「下がってください。」
あわあわするサラはその冷静な声に振り返る。そこには既に“アークエンジェルアローサル”状態のミネルヴァが、その右手に“エクスカリバー”を掲げ、天力を集中させている。
「わっ!」
サラがシュンッ!と一瞬で移動する。同時に、ミネルヴァが放つ。
“アヴァロンズ・シャイン”
一瞬全ては光に包まれ、10㎞先まで伸びる巨大な光線が“彼の者”を飲み込んだ。しかし、これではあの“破滅の不死鳥”も消し去れなかった事はミネルヴァも先刻承知。故にすぐさま次の手を用意する。“アヴァロンズ・シャイン”の光を“エクスカリバー”に纏わせた。そして、予想通り、そこに立っている“彼の者”を横薙ぎにする。
“エクスカリバー・アヴァロン”
射程およそ10㎞の剣。それは京で最も高い位置にある“王土”だからこそ使えた荒技であった。王土跡の窪地の縁の半分が光の刀身によって削ぎ取られ、京の街が見渡せるようになっていた。
「これでも、ダメですか・・・。」
そんな攻撃を浴びて尚、“彼の者”は変わらずそこに立ち尽くしていた。




