第303話:憤怒と性
京・護国院地下・“彼の者”対策本部
天ヶ崎の言った通り、難波は護国院の頭脳としての務めを果たしていた。
「良いか!何としても残り2つの黒い塊の所在を明らかにするのだ!完全に姿を消した西洋方面に飛んで行った塊の情報をサンクティタス国王と連携して収集せよ!」
「“華”にも協力を仰ぎますか?」
部下の提案に難波はすぐさま反対する。
「ならん!“華”に借りを作れば一生付きまとわれ兼ねぬ。特に最近の“華”はな。あくまでもサンクティタス国王とだけ連携を取るのだ。もう1つの大洋に沈んだと見られる塊も、海中にて変異し、姿を現しているやも知れん!黒水諸島の者らを使って、情報を集めさせよ。」
「はっ!」
「あと懸念されるのは“とこしえ荘”だ。まだ連絡は付かんのか!?」
通信機で呼びかけている部下が首を横に振る。
「ッ・・・!ある意味では、それ自体が塊が変異したことを告げているとも取れるわけだが・・・。」
流界・とこしえ荘
難波の想像通り、とこしえ荘に着弾した2つの塊も変異を遂げていた。変異した塊の前に、美雷が立つ。
「何の当てつけか、因果なのか。何故そのような姿に変容したのかは知りませんが。」
美雷の眼前には、モノトーンで彩られた疾風と美鳥が立っていた。
「よもやご本人方・・・ではありませんよね?」
美雷は少しだけ淡い期待を抱いた。だが、その想いは白黒の2体が右手を前に出し、不知火を掌に発生させたことで焼き尽くされた。
“【追憶】閃の不知火”
美雷は瞬時に身を翻し、地面に手を着く。
“とこしえ荘防衛術・其ノ壱・【砦】”
美雷が躱したことで2つの不知火の閃光は真っすぐ“とこしえ荘”へと向かっていった。
キュドッ!!
閃光は和神の部屋の辺りに命中し、白い爆発が起こる。しかし、爆発が収まると、“とこしえ荘”には焦げ目ひとつ付いていない事が分かる。
これが美雷が美鳥から受け継いだ“とこしえ荘を護るための術”である“とこしえ荘防衛術”の1つの力であった。“其ノ壱・【砦】”は“とこしえ荘”の家屋全体を薄く強固な結界で覆う術。一見、何の変わりもないアパートに見えるが、その実、“砦”の如き頑強さを付与されているというものである。尚、この術の発動に用いられる“力”の在り処は術者ではなく、“とこしえ荘”自体に練り込まれている“妖石”から抽出されている為、術者本人には一切負荷がない。
「やはり偽物ですか。美鳥様は絶対に“とこしえ荘”を破壊するような真似は致しませんから。・・・らしくもない、淡い期待を抱いた私が馬鹿でしたね。」
そう言って美鳥は立ち上がり、袴に着いた砂をはたく。
「何故そのような姿に変容したのかは知りませんが。」
パチパチッ・・・!
美雷の瞳に金色の雷電が奔る。
「それは私を憤らせる役割しか担ってはいないという事・・・解らせて差し上げましょう。」
魔界・“奈落”
「サタン、その相手、我にさせてくれまいか?」
そう言って“奈落”の底に降り立ったのは、かつて七災神・フェンリルを屠ったオリエンス王国軍・大将グレイプニルであった。
「ふむ・・・尾けていた理由は其か。」
「如何にも。貴公を斬るわけには行かぬ。金が支払われぬ故にな。されど、得体の知れぬ物から出でた、貴公を模した人形、実に興味深いのだ。」
黒いフードの中でグレイプニルは笑みを浮かべていた。サタンはそれを見て、許諾する。
「フン、ダークロード種の性か。仕方あるまい。貴様に葬られるのであれば、それもまた解答であろうからな。」
「感謝する。」
そう言うと、グレイプニルはモノトーンのサタンに向け、長刀を構えた。




