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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
302/370

第302話:追憶の人形

護国院地下・“彼の者”対策本部

「初代妖王だと・・・!?貴族院に落ちた黒い塊は初代サンクティタス国王兼初代貴族院長であるルクス・ゼウス・サンクティタスの姿になったと報告が上がっている!」

難波の声は焦燥感に駆られていた。本来、初代妖王や初代サンクティタス国王が蘇ったとしたならば、それは喜ぶべき事象であろう。しかし、現れたのは敵である“彼の者”が放った得体の知れない、恐らくは混沌で精製されたと見られる黒い塊からである。それは十中八九、敵として現れたと見て間違いないだろう,と難波は考えていた。更に、難波の脳内にある初代妖王と初代サンクティタス国王についての知識がより一層不安を募らせていた。もしも、黒い塊から形成された存在が、その姿形のみならず、能力までをも形成していたら,と。

「天ヶ崎、その初代妖王の姿をした奴は、敵意があるか?威圧感は・・・?」

ゴロゴロ・・・。

難波が問いかけた直後、通信機越しに雷が鳴るような音が聞こえた。


護国院・司守の間

天ヶ崎が天井に開いた穴から空を見上げている。

「・・・天候が変わった。雷雲が空を覆い始めた。初代妖王が敵と相対す時、天空そらは王を鼓舞するように雷鳴を轟かせた・・・だったな?伝承の通りなら、初代妖王の姿をした此奴こやつは、私を敵と見做しているのだろうな。」

視線を初代妖王の姿をしたものに戻す。

「天ヶ崎、私もそちらに行く、暫し待て。」

「否、難波。貴公はそこで状況を随時確認し、必要な指示と判断をするのだ。こことサンクティタスに落ちた塊が変異したのなら、他の塊も変異しているはずだ。場合によってはここより戦力が必要な場所も出て来るやもしれん。」

「しかし・・・!」

「貴公は護国院の頭脳として其処そこにいるのだ。こちらの対処は私がする。」

「ッ・・・!良かろう・・・。だがそちらにも増援は出す。もし其奴そやつが初代妖王そのものの力を有していた場合、貴様1人で対処できるものではないだろうからな。」

「フッ・・・感謝する。」


精霊界

鮮やかな緑の草原に極彩色の花々、透き通る空気に青々と茂る樹木に神秘的な露が滴る。そんな幻想のような色鮮やかな世界に、白黒の存在が1つ。その存在に、野次馬として集まった小さな妖精たちが騒いでいる。

「大精霊様だぁー!」

「色のない大精霊様!」

「キレイだけど物足りない!」

「物足りないのは大精霊様じゃなーい!」

精霊界に落ちた黒い塊が変異した姿は、大精霊そのものの姿だったのである。

『皆、危ないかもしれないから、下がっていなさい。』

「はーい。」

野次馬精霊たちは聞き分け良く、樹木の後ろの方へ身を隠した。そもそも大精霊が自ら作った存在なのだから、聞き分けが良くて当然なのだが。

『その姿・・・あの子の意思なのかしら?』

「・・・・・。」

白黒の大精霊は黙して語らない。


魔界・“奈落”

何故なにゆえ太古の昔の我の姿を模したのか?それも色を抜いて。」

魔界に落ちた黒い塊が変異した姿は、昔のサタンの姿であった。

「その姿は・・・そう、我が天界より魔界ここへ堕とされ、“彼の者”に救われた時分の姿か。・・・フン、さしずめ“追憶の人形”と言った所か?」

サタンは奈落の底から瘴気で覆われて見えない魔界の空を見上げた。

「妖界の東洋の地から遥々混沌が“奈落ここ”に飛来した。“彼の者”自身とは異にした気配故、“彼の者”の分身わけみでも来たかと思えば、とんだ茶番だ。」

サタンは自らの姿をかたどった“追憶の人形”に目を向ける。

「だが良い。良い機会だ・・・。現在いまの我がかつての我と比較くらべて如何いかほど力を得たのか試す、絶好の機会だ。」

サタンは不気味におどろおどろしい、戦慄の笑みを浮かべた。

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