第300話:行方
“彼の者”が放ったと見られる黒い塊が司守の間に直撃したのを視認し、天ヶ崎がすぐさま駆け出す。和神らも追従しようとするが、それに気付いた天ヶ崎が制止する。
「待て。あの黒い塊の件は“こちら”に任せてくれ。君たちに依頼したのは飽くまでも“彼の者”への対処だ。あのどこへ飛んで行ったのかも分からない黒い塊の事まで君らに依存するわけにはいかぬ。」
それを聞いた母屋の屋根の上にいる陰美が言う。
「その通り。“彼の者”と思しき存在は王土跡の窪地に未だ留まり、活動を停止している模様です。我らはあちらの対処に専念すべきかと。特に、和神様は。」
和神らは皆一様に頷いた。
「“彼の者”の事は頼んだ。」
そう言って、天ヶ崎は再び高速で駆け出して行った。司守の間へと向かう道中、天ヶ崎は通信機で難波へと連絡を取る。
「難波、私だ。王土から飛ばされた黒い塊の行方はどうなっている?」
護国院地下・“彼の者”対策本部
天ヶ崎の通信に難波が応える。
「“彼の者”は天帝結界の存在に感づいたのか偶々《たまたま》か解らぬが、結界の上空でその黒い塊を飛ばしたようだ。されど、日本各地から既に“黒い飛翔体”の目撃情報が集まって来ている。」
難波の言葉に天ヶ崎は思う。
(王土を呑み込んだ黒い球体を見た者も少なくないだろうからな。王土に注目が集まっていたのだろう・・・。)
難波が続ける。
「未だ情報は錯綜しているが、飛翔体は6つという報告が多い。」
「それは確かだろう。私は肉眼で確認していたが、飛んで行った黒い塊は6個であった。」
「そうか。だとすると・・・1つはここ護国院の司守の間に落下した。」
「ああ、今向かっている。あと5つの行方は?」
「2つの黒い飛翔体が北西の方角で目撃されている、日本を出て行ったようだ。1つは大洋方面で目撃。そのまま大洋に出て行ったという報告もあるが、その後の消息は不明。黒水諸島から目撃情報は上がっていない為、海に落ちた可能性が高い。あとの2つが奇妙だな。」
「何だ?」
「奈良上空で目撃され、そのまま東へと飛んで行ったはずだが、関東圏での目撃情報が全く上がって来ない。東の上空で消滅した,という情報も入っているが・・・。」
そこへ本部に通信が入り、部下が応対する。
「!とこしえ荘からです!」
「繋げ。新しい大家の美雷殿、であったか?何用だ?」
流界・とこしえ荘
美雷が自室から護国院へ通信している。
「今、とこしえ荘の正面、敷地内に黒い塊が落下してきたのですが、これ、“そちらの件”と関係ありますか?」
「!!?なに!?流界に“飛んだ”というのか!?」
受話器越しの難波が狼狽えている。
「関係ありそうですね。今のところ、ただ黒い塊が落ちているだけで異常はありませんが、何か動きがありましたら、報告致しますので。」
「あ、ちょっ・・・」
美雷は通信を切り、1人呟く。
「・・・私も“仕事”をしないといけないかも知れませんよ、美鳥様・・・。」
護国院・司守の間正門前
「・・・2つは流界に・・・分かった。そちらの対処は任せるぞ。司守の間の前に着いた。今から突入する。」
「ああ、気を付けよ・・・一時通信を切る。」
通信機を懐にしまい、天ヶ崎は、司守の間の門扉を開いた。司守の間の天井には穴が開き、部屋の中央に高さ2mほどの黒い塊が落ちていた。塊というよりは、ヘドロやスライムのような柔らかさを感じるものであった。天ヶ崎は近付かず、遠巻きに観察し、再び通信機を取り出した。
「難波、今、司守の間を確認したが、黒い塊が落ちている以外に異常はない。」
「そうか、それはなにより・・・む!今、サンクティタス王国から報告が入った。黒い塊が貴族院前に落下したようだ。」
「数は?」
「・・・1つだそうだ。・・・北西に飛来した塊は2つだったはずだが・・・。」
「ああ・・・。何か、嫌な気配だ。」
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