第30話:貴族院特使
「何故私たちまで?」
眉をしかめた狗美が陽子に尋ねた。檻に囚われた日から2日目に和神、狗美、陽子の3人は牢から普通の客室に移され、貴族院の使いを迎える準備をさせられ、そして今日、3人は司守の間に護国院の割と上層階級の者たちと並んで貴族院の使いが来るのを待っていた。
「仕方ありませんよ。貴族院の方は鋭い感性をしていますから、牢にいても膨大な妖力を秘めている狗美さんにも、“独特な気配”を纏っている和神さんにも気付いてしまうでしょう。ならば罪人を『護国院内に入れた』というよりは、『陽子さまの友人』として紹介した方が心象は遥かに良いでしょう?」
「もし貴族院の使いに認められたら、戦争に駆り出されるんですか?」
「それは・・・。」
和神の問いに答えあぐねている陽子。そこへ陰美が割って入ってきた。
「どうだろうな。今回の訪問、どうやら貴族院の指令で来るわけではないらしいからな。何か別の要件かも知れん。」
それだけ言うと、陰美は司守の間の門の方へ目をやった。
「いらっしゃったようだ。」
門が開くと、そこには護国院長とその妻、それから白い髪に白い肌、青い瞳をした、少し耳の尖っている女性が入ってきた。その女性は僅かに白い光を放っているように見え、女性の周囲にお付きの人が数人いるということに気が付くのに少し時間がかかった。
その厳かな方々が入ってくると、護国院の者たちは皆跪き、頭を垂れた。
「おやめ下さい、皆さん。私はそういったことを嫌います。面を上げ、楽にして下さい。」
白い女性が跪いている者たちを諭し、皆はそれに応じて立ち上がった。
「申し遅れました、私は貴族院特使ミネルヴァ・エンシェント・ホワイトと申します。」
さっきまで跪いていた者たちが今度はどよめき始めた。
「何でどよめいてるんですか?」
和神は陽子に尋ねたが、陽子も動揺している様子だった。
「“ホワイト家”・・・それに神の名と“エンシェント”の名を冠するのは、現貴族院長の一族だけです。つまり、あの方は・・・。」
陽子がそこまで言ったところで、特使のお付きの小柄な女性が意気揚々と語った。
「皆様お察しの通り、この方は貴族院長オーディン・エンシェント・ホワイト様の実子であらせられるぞ!!」
「やめなさい、ピクシー。はしたないですよ?」
ピクシーと呼ばれる女性はすごすごと引っ込んだ。そして特使は、今回の訪問についての詳細を語り始めた。
「此度の急な訪問、誠に申し訳ありません。しかし、事態は切迫しており、緊急に実力・人柄ともに信用に足る人物を招集したいため、今日の訪問に至りました。」
また護国院がざわついた。その発言内容にではない。特使が、頭を下げたことに対してである。特使のお付きの者たちも合わせて頭を下げている。ピクシーと呼ばれていた彼女も例外なく。
「早速ですが、一瞥したところ、護国院関係者ではない方がお2人程いらっしゃいますね?」
特使はまっすぐに和神たちの前へやってきた。
「あなた方は?」
「わたしの友人です。戦力がご要りようかと思い、呼びました。」
陽子が答えると、特使は和神と狗美をじっくりと観察している。この時、和神は内心綺麗な女性だな~、超上品だし,などとのんきなことを考えていた。
観察を終えた特使が口を開いた。
「このお2人と陽子さん、陰美さん以外の方は解散して頂いて構いません。」
本日、いや、この短時間で何度目のどよめきか。しかし言われたものは仕方がない。恐らくは護国院屈指の実力者であったやも知れない者たちが和神たちを恨めしそうな目で見ながら司守の間を去っていく。
「護国院長殿、お部屋はありますか?」
「はい、ご用意してございます。」
和神、狗美、陽子そして陰美は特使と共に特使らのために用意された部屋へと向かった。




