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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
299/370

第299話:開始

“王土”を中心に広がる“黒いドーム”は、“王土”外周に展開している王族たちが張る結界に接触し、バチバチと音を立てて膨張を阻害されていた。しかし、それも束の間の希望であった。少しずつ、結界は“黒いドーム”に浸食されているのである。

「ヤバいね。結界破られんのも時間の問題っぽいわ。」

護国院の母屋上空から様子を伺っていたサラが、母屋の屋根の上にいる和神たちに言う。その言葉通り、およそ2分後、“黒いドーム”は結界を吞み込んだ。

結界を張っている王族たちの中に“逃げ出す”という選択肢は存在しない。“黒いドーム”が迫る中、幾度も結界の強化と張り直しを繰り返し、最後まで務めを果たし続ける。そして・・・。

「・・・王族の方々が、“黒いドーム”に呑み込まれました・・・。」

同じくサラの隣で偵察していたミネルヴァが報告した。“王土”外周に展開していた王族たちを呑み込んだ後、程なくして“黒いドーム”は膨張を停止し、やがて膨張する約3倍の速度で収縮を開始した。

「“黒いドーム”が縮んでくよ!」

サラがそう伝えた時には、既に“黒いドーム”は半分以下の大きさまで収縮していた。同時に、それが“ドーム”ではなく、“球状”である事が明らかとなる。それまで“王土”と呼ばれていた台地が、巨大なクレーターと化したのである。

「ここに居たか!」

陽明の側近、天ヶ崎が母屋の屋根の上に飛び乗って来た。

「只今、“黒いドーム”が膨張を止め、収縮し始めた様です。“王土”外周に展開し、結界を張っていた王族の方々はそのドームに呑み込まれました。」

陰美が淡々と報告する。

「てゆーか、アレ、ドームじゃなくて、球体だったっぽい!“王土”なくなって窪みになっちゃった。」

「その“王土”跡の窪地に、複数の横たわる妖が確認できます!一頭は巨大な白い龍の様です。」

上空のサラとミネルヴァが新たに報告をあげる。その報告を聞いた天ヶ崎が白い翼を広げ、すぐさまミネルヴァたちと同じ高度まで飛び上がった。

「なんと・・・。」

天ヶ崎がその眼で確認し、固唾を飲んだ。

「あれは・・・妖王だ・・・。」

「!!」

皆が一様に驚く。

「私も妖王の妖態を見たことはないのだが、妖王は代々龍族であり神龍なのだ。あの神々しい白龍は文献に見る神龍に相違ないだろう・・・。恐らく周囲に倒れているのは王族の現当主たちで間違いない。」

「あー・・・つまり、妖王様たちは対処に失敗したってコト?」

サラの問いに対し、天ヶ崎は答えの代わりに号令を発する。

「・・・妖王及び王族の方々は倒れられた。そして、彼の黒きドームは“王土”の外周にまで及んできた。・・・となればここからは護国院の領分だ。只今を以って、“彼の者”への対処を開始してくれ!」

「了解しました。」

隠密隊長として、陰美が即座に返事をした。それと同時に、黒い球体が収縮した場所、“王土”跡のクレーターの中心部から、黒い柱が天に向かって立ち昇り始めた。

「今度は何!?」

サラが黒い柱の先を目で追いながらグチっぽく言う。その黒い柱は上空およそ3000mまで到達したかと思うと、バァン!,と音を発し、6つの黒い塊に分かれて飛び散った。その内の1つは、和神たちのいる方向へと飛んできた。

「ちょっとアレ、こっち飛んで来てない!?」

「飛んで来てますね・・・ですが・・・。」

ミネルヴァは冷静だった。確かにこちらには飛んで来ていたが、僅かに方向が違う事に気付いていたからである。ミネルヴァの読み通り、黒い塊は和神たちの居る母屋から数十m外れて飛んで行った。

「!!まさか、あの方角は!?」

天ヶ崎が焦りの色を見せる。黒い塊は、護国院本殿・司守の間の屋根に着弾した。

次週は休載致します。

次回は4月16日投稿予定です。

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