第299話:開始
“王土”を中心に広がる“黒いドーム”は、“王土”外周に展開している王族たちが張る結界に接触し、バチバチと音を立てて膨張を阻害されていた。しかし、それも束の間の希望であった。少しずつ、結界は“黒いドーム”に浸食されているのである。
「ヤバいね。結界破られんのも時間の問題っぽいわ。」
護国院の母屋上空から様子を伺っていたサラが、母屋の屋根の上にいる和神たちに言う。その言葉通り、およそ2分後、“黒いドーム”は結界を吞み込んだ。
結界を張っている王族たちの中に“逃げ出す”という選択肢は存在しない。“黒いドーム”が迫る中、幾度も結界の強化と張り直しを繰り返し、最後まで務めを果たし続ける。そして・・・。
「・・・王族の方々が、“黒いドーム”に呑み込まれました・・・。」
同じくサラの隣で偵察していたミネルヴァが報告した。“王土”外周に展開していた王族たちを呑み込んだ後、程なくして“黒いドーム”は膨張を停止し、やがて膨張する約3倍の速度で収縮を開始した。
「“黒いドーム”が縮んでくよ!」
サラがそう伝えた時には、既に“黒いドーム”は半分以下の大きさまで収縮していた。同時に、それが“ドーム”ではなく、“球状”である事が明らかとなる。それまで“王土”と呼ばれていた台地が、巨大なクレーターと化したのである。
「ここに居たか!」
陽明の側近、天ヶ崎が母屋の屋根の上に飛び乗って来た。
「只今、“黒いドーム”が膨張を止め、収縮し始めた様です。“王土”外周に展開し、結界を張っていた王族の方々はそのドームに呑み込まれました。」
陰美が淡々と報告する。
「てゆーか、アレ、ドームじゃなくて、球体だったっぽい!“王土”なくなって窪みになっちゃった。」
「その“王土”跡の窪地に、複数の横たわる妖が確認できます!一頭は巨大な白い龍の様です。」
上空のサラとミネルヴァが新たに報告をあげる。その報告を聞いた天ヶ崎が白い翼を広げ、すぐさまミネルヴァたちと同じ高度まで飛び上がった。
「なんと・・・。」
天ヶ崎がその眼で確認し、固唾を飲んだ。
「あれは・・・妖王だ・・・。」
「!!」
皆が一様に驚く。
「私も妖王の妖態を見たことはないのだが、妖王は代々龍族であり神龍なのだ。あの神々しい白龍は文献に見る神龍に相違ないだろう・・・。恐らく周囲に倒れているのは王族の現当主たちで間違いない。」
「あー・・・つまり、妖王様たちは対処に失敗したってコト?」
サラの問いに対し、天ヶ崎は答えの代わりに号令を発する。
「・・・妖王及び王族の方々は倒れられた。そして、彼の黒きドームは“王土”の外周にまで及んできた。・・・となればここからは護国院の領分だ。只今を以って、“彼の者”への対処を開始してくれ!」
「了解しました。」
隠密隊長として、陰美が即座に返事をした。それと同時に、黒い球体が収縮した場所、“王土”跡のクレーターの中心部から、黒い柱が天に向かって立ち昇り始めた。
「今度は何!?」
サラが黒い柱の先を目で追いながらグチっぽく言う。その黒い柱は上空およそ3000mまで到達したかと思うと、バァン!,と音を発し、6つの黒い塊に分かれて飛び散った。その内の1つは、和神たちのいる方向へと飛んできた。
「ちょっとアレ、こっち飛んで来てない!?」
「飛んで来てますね・・・ですが・・・。」
ミネルヴァは冷静だった。確かにこちらには飛んで来ていたが、僅かに方向が違う事に気付いていたからである。ミネルヴァの読み通り、黒い塊は和神たちの居る母屋から数十m外れて飛んで行った。
「!!まさか、あの方角は!?」
天ヶ崎が焦りの色を見せる。黒い塊は、護国院本殿・司守の間の屋根に着弾した。
次週は休載致します。
次回は4月16日投稿予定です。




