第297話:当然
京・護国院・司守の間
『・・・まぁ、“彼の者”の封印を真っ先に破ろうとしたのは護りの不死鳥・イックスだったのだけれど。説得しても無駄だから、フェンと妖王たちが協力して封印したとか。・・・はい、“彼の者”のお話はこれでお終い。定命の者には長話だったかしら?でも、知っておいた方がいい話だったでしょう?もし、今の妖王たちが“彼の者”を止められなかったら、その時は、直接私と・・・恐らくはサタンも姿を見せるでしょう。恐らく、だけれど。じゃあ、また。』
フッ・・・と一瞬、フウの身体から力が抜け、その場に倒れそうになったところをミネルヴァが支え、呼びかける。
「大精霊様・・・?」
「・・・うぅ・・・大精霊様は、もう“抜けた”・・・。」
「フウ様・・・。」
大精霊の意識はフウから抜け出て行った。大精霊から語られたあまりに壮大な過去に、司守の間の全員が呆気に取られていたが、護国院長・陽明が口を開く。
「・・・“彼の者”、そしてついで、というにはあまりに重大な世界の過去は解ったと思う。万が一、現在戦われている王族の方々が敗れた場合には、大精霊殿と恐らくではあるがサタン殿もこの京にお越しになられると。・・・つまりこれはかつて“彼の者”を封じた戦いの再現という様相である。ともすれば、お主らには、“今は亡き戦力”の部分を担ってもらうことになろう。それでも尚、護国院の為、否、文字通り世界の為に、力を貸してくれるだろうか?」
陽明の言葉に、和神たちは顔を見合わせる。
「和神くんから言うのがいいんじゃない?」
サラが提案し、皆が頷く。
「え・・・。」
衆目が集まり、緊張する和神。だが、待たせている空気に耐える方がより苦痛に感じる和神は、早々に答えを述べる。
「当然、です。」
狗美、陽子、陰美、ミネルヴァ、フウ、サラ、皆が誇らしげに微笑んだ。
「和神が行くなら私も行く。」
「わたしも当然、ですよ♪」
「私は護国院の者なので職務として当然です。」
「世界の危機、貴族院として看過出来るわけがありません。」
「・・・乱れ、正すのが・・・精霊の仕事。」
「つーかどこの世界にいてもヤバいんじゃ逃げよーがないじゃんwやるしかなくない?」
心強く、頼もしい言葉に、陽明は深々と頭を下げた。
「我が娘たち、護国院の外の者、国の外の方々、ましてや異界の者達にまで、斯様な大役を任せてしまい、誠に申し訳ない!」
横に付く天ヶ崎と難波も同じように頭を下げた。
十数分後。
京・護国院の敷地内・王土へ続く門の前・簡易的な小屋
妖王と王族たちの“彼の者”への“対処”が失敗した場合に備え、和神たちはここで待機する事となった。
「あれ?陰美ちゃんは?」
姿の見えない陰美の事を長椅子に腰かけるサラが気に掛ける。
「陰美は、隠密隊に警戒態勢の変更を伝えに向かったよ。・・・“内側”で何が起きても援護に来なくて良い,って。」
陽子の答えに、サラは納得したような表情をする。
京・護国院敷地周辺
陰美が警戒に当たる隠密隊に指示を伝える為に隊員のもとへ向かっている。
「!」
妙な気配に、立ち止まる。
「誰だ・・・?」
陰美の目の前の大気中の水分が集まり、女性の形が形成された。
「!?」
警戒する陰美に、水分で形成された女性が口を開く。その声は聞き覚えのあるものであった。
『陰美、といったかしら?』
「!?大精霊様・・・ですか?」
『ええ、この身はウンディーネのものだけれど。』
「何か、御用ですか?」
『そうよ。・・・貴女にしか、頼めない事。』




