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異界嬢の救済  作者: 常盤終阿
最終章:受け容れし者 編
294/370

第294話:異変

「それまで世のために動いていた“彼の者”が“万物の敵”に・・・?」

陽子が疑問を口にする。

『そう・・・。私が“彼の者”の異変に気付いたのは、一部の環境に異常が起こり始めたからだった。“彼の者”の助言の通り、各環境をシルフのような精霊たちに任せていたのだけれど、一部の環境だけ、変化が生じても調整ができない,という現象が起こり始めたの。初めはある程度の意思を持たせた精霊が怠けているのだと考えていたのだけれど、精霊の1体が私に直接異変を告げに来たから、何かあるのかも知れない,と思って原因を調べに異変が起きている場所に赴いてみたの。そうしたら、異変が起きている近くの妖の集落に“彼の者”がいたの。・・・ひと目見て、異変の原因が“彼の者”にあると気付いたわ。』

「“彼の者”にも異変が?」

ミネルヴァが問う。

『ええ。・・・纏う気配ものがね、もう別物になっていたのよ。以前に会った“彼の者”は、“受け容れし者”特有の、近くにいると心地が良い包容力のようなものがあるコだった。それが、その時の“彼の者”は、何か得体の知れない“黒い物”を纏って、漲らんばかりの殺意か憎悪か・・・そういう気配を放ちながら、集落を彷徨っていたの。そこの集落の妖たちも警戒して家の中から様子を伺っていたわ。』

「どうしてそんな・・・“彼の者”に何が?」

陰美が投げかける。

『当時の私も気になって・・・というより、放っておいたら不味いと思い、一時的に沢山の精霊を創って“彼の者”に何があったのか調べさせたわ。そして、原因が解かった。“受け容れし者”の限界だったと。』

和神がピクッと反応する。すかさず狗美が訊く。

「“受け容れし者”の限界・・・?」

大精霊は頷く。

『“彼の者”は困っている者達を助けるために動いていたと言ったでしょう?それは建国のような大きなものから悩み相談のような個人単位のものまで多岐に渡った。・・・それが数千年か数万年か永い永い時間続いた。私は知らなかったけれど、“彼の者”に悩み相談をする妖は多かった。“彼の者”に話すと気が楽になる,嫌な感情を忘れられる,と。それは“彼の者”が“受け容れし者”の能力ちからで受け容れていたからに他ならなかった。“彼の者”は困っている者、悩んでいる者を救うためにそういう者たちの嫉妬・怨恨・恨み辛み・憎悪・殺意・・・そういった“負の感情”を受け容れ続けていた。・・・そして、限界を迎えた。“彼の者”の感情は、“負の感情”に囚われた。でもそこまでなら、皆でケアしていけば元に戻せたはず。でも、それは叶わなかった。“受け容れし者”の能力と“負の感情”の相性は最高にして最悪だった。“受け容れし者”として数多の妖やエルフ、精霊、魔物、不死鳥とまで親交があった“彼の者”の“器”にはあらゆる種類の“力”が蓄積されていた。妖力1つとっても、厳密には1人ひとり違うモノ。それを幾千の者たちから受け容れ続けていた所に“負の感情”が混ざりあい、それはもう“混沌カオス”と言っていい代物と化していた。それが“彼の者”を纏う“黒い物”の正体。“彼の者”は、世界を構成した原初のことわり、“混沌”をその身に宿していたのよ。』


王土・深淵の間


バキィ!!

剛氣のフルスイングは、振るった金棒の軌道上の空間が揺らぐ程の膂力で振るわれていた。“世界樹の寄生木”及び、その中に囚われている“彼の者”もろとも粉砕したハズであった。しかし、“彼の者”は変わらずそこに立ち尽くしていた。王族たちも流石に焦り始める。

「封印した際は初代妖王様や大精霊殿らの攻撃は通じていたと聞き及んでおるが・・・!」

「今の我らは未だその領域におらぬと・・・!?」

「否!断じて否!!我らは常に歴代最強の猛者!見た目は効いておらずとも、蓄積はされておるはず!攻撃を続けるのだ!」

王族たちが口々に言い、再び攻撃を仕掛けようとするが、それを青い長髪に美しい白い皿を頭頂部に乗せた女性が制す。河童である水奈神家当主・水奈神流姫みなかみるきである。

「落ち着き、退きなさい!」

そして術を放つ。

時流球じりゅうきゅう・・・

“彼の者”を水で形成されたドームに閉じ込める。

凍結”

水のドームが凍り付く。同時に、ドーム内の“時”も凍結した。

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