第293話:王族
“王族”は、“火”を司る“焔城寺家”、“水”を司る“水奈神家”、“木”を司る“樹福寺家”、“金”を司る“金剛寺家”、“土”を司る“土地神家”の五大名家と呼ばれる一族たちで構成されている。この“王族”のとは別に、“妖王”の家系である“神龍院家”が存在しているのである。
王族の家系は、王族の外から才ある様々な種族の妖の嫁や婿を取り、常に新しく、強い者が生まれ、“歴代最強”を更新し続けるように努め、その一生を修行と鍛錬に費やして生きる。そして年に一度、一族の中で最強の者を決め、当主に据える。“彼の者”が復活した時、その対処に当たるのは、その時に各家で当主の座に就いている1名のみ。他の者たちは戦いの影響が“王土”の外へと及ばないように周囲に結界を展開する。
これに対し、妖王の家系・神龍院家は王族同様に外から嫁や婿を取るが、その種族は“龍族”に限られる。これは、妖王の座に常に、人狼でいうところの“犬神”、妖狐でいうところの“九尾”と同様の存在である“神龍”を据える為である。“神龍”は龍族の中に1万年に1度生まれ、比類なき力と1万年を超える寿命を持つ妖最強の存在の1つである。“彼の者”が復活した際には、その時代の妖王が陣頭指揮を執る。
即ち、今、“深淵の間”にて“彼の者”と相対している“妖王”と“王族”5名は妖界において最強と謳われる王族の中の歴代最強の主たちなのである。
先陣を切って、“彼の者”を大剣で次元ごと横薙ぎに斬り裂いた獅子の頭を持つ男は、焔城寺家の当主で“獅子”である、焔城寺獣悟。だが、“彼の者”は次元を斬り裂く一撃にも、その身に纏っている“黒い物”をゆらゆらと揺らすばかりで、まるで効いていないかのようである。獣悟の斬り裂いた次元が次第に元に戻っていくが、その前に・・・。
“八大地獄武闘”
“土蜘蛛”であり、身長3mはあろうかという巨躯を誇る土地神家当主・土地神絲角は、左右に3本ずつある6本の腕で身長170cmあまりの“彼の者”に、篭手を付けた拳を打ち込んだ後ドロップキックを食らわせる。その連続打撃は周囲の空間を波紋のように歪めている。絲角の連撃が終わった直後、“彼の者”の足元に魔法陣が展開され、獣悟と絲角はその場を離れる。
“世界樹の寄生木”
地面に展開された魔法陣から樹木が現れ、瞬く間に“彼の者”を捕らえ、その姿が見えなくなる程の太い大樹が“深淵の間”の天井まで伸びた。長い鼻と深緑色の翼を持つ“天狗”である樹福寺家当主・樹福寺賀繁の術である。
樹木が巻き付いた“彼の者”に、黒鬼である金剛寺家当主・金剛寺剛氣が、その手に持った金棒を大きく振りかぶる。
“此世割り”
護国院・司守の間
『“彼の者”が封印されたのは、“彼の者”が世界の脅威となる事が明白になったから。よく考えてみて?サタンは魔王と称されていて、サンクティタス王国のエルフたちや天界の天使たちにとっては大悪党のように思われているのに、封じられないのは何故だと思う?』
その問いかけには、誰も答えられなかった。見かねた大精霊はすぐに答えを提示した。
『それは、“理性があって、全てにとっての敵ではないから”よ。いい?魔物の娘がいるから分かると思うけれど、サタンは話ができるわ。そして、サンクティタス王国や天界の天使たちにとっては敵であっても、魔界ではオリエンス王国を統治し、崇められる存在よ。この世の全ての存在は“そういう存在”なの。誰かにとっては害敵であっても誰かにとっては味方である。多少の偏りはあっても、必ずそうなっているもの。この世の理の1つとも言えるわ。』
「“彼の者”は違った,と?」
陰美が問う。大精霊は頷き、続ける。
『ええ、“彼の者”は、この世の・・・いえ、“万物の敵”となってしまったの。』




