第289話:言伝
「相変わらず賑やかな事で。」
そう言って“とこしえ荘”の屋根から颯爽と舞い降りたのは陰美であった。
「カゲミン!」
サラが初めての渾名で呼ぶが、陰美はこれを無視し、美雷と会話を始める。
「初めまして、妖界・京都・護国院の陰美と申します。」
「貴女が護国院の・・・。美鳥様より“とこしえ荘”の管理を任されました、美雷と申します。」
2人とも深々と頭を下げ、大人の挨拶を交わす。
「連絡は受けております、急な要件だとか。」
「はい。忙しなくて申し訳ないのですが、和神様と狗美様を護国院にお連れしたく・・・。」
常に真面目な陰美だが、今日はいつにも増して真剣な面持ちをしているように見える。
「・・・それと、ちょうどフウ様とサラ殿もいらっしゃるので、お2人もご一緒に参りますか?近くの次元孔近くに駕籠を用意しております。」
陰美の妙に他人行儀な姿勢。それに駕籠を用意してある,という事は、こんな早朝にわざわざ迎えに来たという事である。和神は何か大きな事情があるような気配を察した。和神と狗美、そして、それぞれサタンと大精霊から言伝を預かったサラとフウはすぐに陰美に同行し、輪入道が運ぶ駕籠に乗った。
陰美と同行して“とこしえ荘”を出る時、美雷は和神に言った。
「美鳥様はずっと貴方様の幸せを願っておいででした。・・・お気を付けて。」
まっすぐと目を見て言われたその言葉の意味を、この時の和神はまだ、ただ心配してくれてるのかな,程度にしか理解できなかった。
妖界・京・護国院・司守の間-午前8時30分頃
陰美が荘厳で重厚な扉を開け、和神たち一行が中へ入る。
「久しぶり、和神くん。」
「お久しぶりです、和神様。」
既に司守の間に来ていた陽子が軽く手を振り、ミネルヴァは軽く頭を下げた。
「お久しぶりです。」
和神も2人に軽く会釈する。
「うむ、これで皆揃ったな。」
再会を喜んだのも束の間、威厳ある声がその場を緊張に包む。声の主は陽子と陰美の父で、護国院の長、護国院陽明である。傍には護国隊長である天ヶ崎と陰陽隊長である難波を伴っている。
「なーんか真面目な雰囲気ぃ~。」
サラがボヤ~っと呟く。それを見た難波が怪訝な顔をし、陽明に耳打ちする。
「ッ・・・!陽明様、やはり魔の物を司守の間に入れるなど・・・!」
「難波よ、妖、人間、精霊、魔族、そんな些末な事に捉われている時ではないと知れ。」
「!・・・申し訳ありません。」
一喝され、難波は口を噤んだ。明らかにただ事ではない事態である。それは、サラとフウがそれぞれ預かってきた“言伝”の内容と同じ理由であることがすぐに明かされた。
数分後-。
「では、大天使殿のみならず、大精霊殿と魔界の主もまた、この事態を把握していたという事か・・・。」
陽明は少し驚いた様子であったが、すぐに納得したように頷いた。
「私は大天使様が告げて下さり、急ぎこちらへ参ったのですが、フウ様とサラも同じだったのですね。そして、和神様と狗美様も駕籠の中でその“言伝”を聞いたと。ならば話は早いですね、護国院長。」
ミネルヴァは自身が護国院を訪れた経緯を話した後、陽明に今後の動きについての指示を仰いだ。
「うむ。和神殿と狗美殿に来てもらった理由はまさしく“それ”である。現在、“王土にて王族が対処している”が、どうなるか解らぬ。それ故、我が護国院の信用と実力を兼ね備えた其方等を招集した次第だ。特に・・・。」
陽明は和神の顔に重々しい視線を向ける。
「和神翔理。其方の力が最も重要となる事が考えられる。其方の“受け容れし者”としての力が。」
和神は思わずゴクッと生唾を飲んだ。それを見た陽子が父である陽明に問う。
「王族でも、止められない可能性があるんですか?」
陽明は目を閉じ、ゆっくりと頷いた。
「左様・・・。仔細は解らぬが、それ程の存在であると伝えられている。故に大天使殿も大精霊殿も、魔界の主も告げたのだろう・・・“彼の者の復活”を。」




