第286話:本来の目的
王狼街より少し北へ行った森の中
狗美と和神はナナミの案内のもと、“本来の目的”を果たすために“神狼院の隠し金庫”が保管されているという蔵へと向かっていた。
王狼街・商人地では、未だ式典の雰囲気が漂う中、街の復興作業や続々と集まって来ている商人や王狼院に怨恨を抱える者などの対応が始まっていた。狗美と和神は、当初の予定通り王狼街を後にする事を決め、士狼に“神狼院の隠し金庫”の場所が分かる王狼院の捕虜はいないか尋ねたところ、すぐ近くにいたナナミが1度行ったことがある,と言うので、そのまま案内役を頼み、士狼には別れを告げて王狼街を出たのである。士狼は、用が済んだらまた戻って来ていいぞ,などと、最後まで狗美たちを引き留めようとしていた。
「“神狼院の隠し金庫”は山間にある“保管地”と呼ばれる蔵が集まっている場所にあるわ。王狼院の連中は“廃棄場所”って呼んでたけど。」
案内しながらナナミが解説する。
「廃棄と保管じゃ意味が違うだろ。」
狗美が疑問を呈した。
「王狼院で“保管”と言うのは、“使うかどうか、役に立つかどうか解らないけど、他者には渡したくない物”を指していたみたいよ。」
「なるほど・・・それで、その場所にはまだかかるのか?というか、何で私たちは“歩いている”んだ?」
言わずもがな、狗美たちは素早く木々を飛んで移動できる。和神も不死鳥の力で付いていく事ができるようになった今、“歩いて移動する”理由がない。この疑問にナナミが答える。
「王狼街と同じ結界が掛けられてるからよ。外から見えない、正しい場所から入らないと入れない結界がね。それに私も1回しか行った事ないからゆっくり行かないと・・・正直、迷う可能性があるわ。」
「迷子は嫌だぞ。」
「大丈夫よ、目印は覚えてるから。」
そう言いつつ、ナナミは内心思う。もし私が完全に王狼院側の妖だったら?森に連れて行って、貴女たちを罠に嵌めようとしていたら?と。実際、そんな事はない。ちゃんと“保管地”に向かっている。だが、狗美と和神の自分に対する信頼が、ナナミにとっては非常に重くのしかかるような感覚があり、楽になる為に、1度裏切った自分を信頼する2人を“警戒心の無い阿呆”だと揶揄しようとしてしまう。
(そもそも群狼隊が降伏する瞬間まで、私は1度も100%狗美の味方だった事はなかった。狗美が脱獄したのを止めようとした後、金剛壱百弐拾参號から逃げて滅豪隊を呼びに行ったのも、半分は狗美を取り逃がした失態を滅豪隊を売り渡して帳消しにするためだった。結果、戻ってきたら狗美が馬鹿に強くなったから流れに任せて滅豪隊側について、金狼・銀狼部隊を排除した。その後、滅豪隊の大多数と狗美と和神を王狼街、王狼城まで案内したのも半分は群狼隊に滅豪隊を潰させて、王狼城で当主・狼真に直接犬神である狗美を明け渡す為だった。だってそうじゃなきゃ、狗美に狼真の“無瑕玉の指輪”の話をしないワケないじゃない?狗美が“無瑕玉の指輪”に捕らわれた時、もし狼真に近付くことに失敗していたら、近付けても指輪を抜き取る事に失敗していたら、私は迷わずそのまま狗美を見捨てていただろう・・・。結果、狼真を縛り上げて商人地に戻ったけど、そこでもまだ私は群狼隊が優勢な様なら寝返るつもりでいた。・・・私は、常にどちらにも転べるように動いていたんだ。それが、私が生きる為に見つけた方法だ。・・・でも結局用意した“半分”は無駄だった。それどころか・・・。)
ナナミは何か楽し気に話す狗美と和神の方を見る。
(無駄だったどころか、あの2人への罪悪感を生むだけの“余分”だった・・・!こんな事なら、全身全霊で協力すべきだった!)
それは、誰にも明かされぬ後悔。ナナミの内にだけ、恐らくは生涯漂うことになる“念”であろう。それでもナナミは生きていく。その“念”を抱えたまま。
(それがきっと、私が王狼院に諂って生きてきた、罰なのだから。)




