第284話:立役者たち
群狼隊敗北宣言の十数分前―――王狼城1階大広間
「ここからは、滅豪隊長の役目です。」
ナナミから狼真のしていた指輪が入った小袋を渡された士狼は、その袋を狗美に差し出す。
「いや、これは狗美ちゃんの仕事だ。俺はここまで付いてきただけで何もしてねぇ。それにこれから神狼院の末裔たちを率いていくのは狗美ちゃんだ。だから・・・。」
「いえ、私は誰も率いていくつもりはないです。」
狗美がきっぱりと断りの言葉を告げた。これに士狼は異議を唱える。
「なっ・・・!?狗美ちゃんがやらないで誰がやるんだ!?」
「士狼さんが引き続き滅豪隊として神狼院の末裔の妖たちを集めて、纏めていけばいいじゃないですか。私は誰かの上に立つなんて出来ないですし、やりたくないので。」
真顔で淡々と意思を述べる狗美には、妙な説得力があり、士狼は渋々その意思を飲んだ。
「わかったよ・・・。ただ、俺じゃ纏め上げられない事があったり、また豪族とかと一戦交えるって時には助力を頼むかも知れないぞ?」
「ええ、その時はいつでも駆け付けます。」
現在―――夜、王狼街・商人地にある宿屋
滅豪隊と群狼隊の戦闘による被害で、入り口の王狼鳥居近くの商店の多くが全壊ないし半壊していたが、居住地付近は被害が少なかったため、和神と狗美は無事だった宿屋で休むことになった。
和神も狗美も、もう戦いは終わり、ここからは滅豪隊の仕事で、自分たちにできる事はないからと、今時の若者らしくそそくさと帰ろうと思っていたのだが、士狼に、明日2人の活躍を称える式典を催したいから残ってくれ,と半ば強引に引き止められてしまい、1泊する事になったのである。
宿屋の一室
「・・・悪いわね、士狼さん強引で・・・。」
そう言うのは、士狼に和神と狗美の護衛兼自身も休息を取るよう指示されたナナミである。旧友ならば積もる話もあるだろう!という士狼の粋な計らいであったが、本当は微妙な関係性のこの2人には完全にありがた迷惑な話であった。
「別にいい。私はともかく、巻き込まれただけの和神は称賛されるべきだと思うしな。」
和神が部屋風呂で入浴中の今、狗美はいつも通りの様子で部屋に備え付けられていた果汁飲料を飲んでいるが、バツが悪そうなナナミはすぐに自室に向かおうとする。
「・・・じゃあ、私の部屋は隣だから・・・その・・・何かあったら呼んで。」
「ナナミ。」
狗美が呼び止める。
「ありがとう。ナナミがいなかったら、多分、色々大変だった。」
ナナミは背中を向けたまま、感謝するのは私の方、私こそありがとう,と思っていた。だが、ナナミは何も語らず、黙って自室へと歩いていった。・・・が、思い出したように戻ってきた。
「隣の部屋だからってその・・・聞き耳立てたりしないから、安心して。」
それだけ言って再び去っていった。狗美はその言葉の意味がよく分からなかったが、取り合えずいびきだけはかかないように注意しようと思うのであった。




