第283話:終局の王狼院・王狼院家
豪族・王狼院家の没落。この一大ニュースはその場に居合わせた逃げ遅れ、隠れていた商人たちによって瞬く間に妖界全土に伝わり、数日後には妖界では知らぬ者のいない事実となっていた。
近日中に王狼院狼真の処刑が行われ、それまで王狼院が牛耳っていた王狼街・商人地は今後、滅豪隊が取り仕切り、大犬市場のような開けた市場として機能させていく予定となった。
一方で、王狼街・居住地の方は、しばらくの間、門を固く閉ざす事になる。理由は、王狼院家への報復行為の抑止の為,である。“王狼院没落”という情報が妖界中を駆け巡り、それが事実であると認識された時、虐げられてきた者たちの手によって、外にいた王狼院家の者たち、またそれに加担していた者たちへの報復が行われた事はもはや言うまでもないだろう。その報復は生きたまま焼いたり、内臓を取り出したりといった非常に凄惨なものが多く、その“報復の波”当然、王狼街・居住地に生き残っている王狼院家にも迫ることとなる。しかし、滅豪隊はこの報復行為を良しとしなかった。「今までして来た事への責は当然負わせるが、それは激情に任せて行われるべきではない。報復とはいえ残虐な行いをすれば、王狼院と同族になってしまう。」とし、王狼院への裁定は王狼院没落を実現させた滅豪隊に一任してほしいと願い出たのである。これには一部反発の声もあったが、王狼院を没落させた張本人たちがその裁定を下すのは至極真っ当な事だ,と、大多数の者が賛同した。
居住地に住む王狼院家の者たちに対する当面の間は、使われていた奴隷や使用人の解放、一切の外出を許さない軟禁状態といった、これまでのような優雅な生活はさせない方針の措置が取られた。当の王狼院家の者たちの殆どは事態が呑み込めていないのか、目立った抵抗もなく滅豪隊に言われるがまま指示に従っていた。だが、使用人が居なくなった事で、彼らがまともに生活できないという問題が生じ始め、家族間で殺しが起きるといった事態にまで発展し、その後の滅豪隊があらぬ仕事に追われる事になるのは、また別の機会に。
王狼院没落から3時間後・・・とある山中
豪華な服を着た細身で長身の男が、大男4人が担ぐ神輿の上に据えられたこれまた豪華な椅子に腰かけ、ふんぞり返りながら後ろから追従しているスーツ姿の部下に訊く。
「あ~~~まだ着かない?宮草家の街にはさ?」
「はい・・・はぁ、もうじきかと・・・。」
「それさっきも聞いた。次言ったら殺すよ?」
「申し訳ございません・・・。」
宮草家、王狼院と同じ豪族で、山の上に街を持っている。通常ならば空を飛べる妖を使って向かう所を、この豪華な服を着た男が今日は山を登りたい気分だ,と言ったことで徒歩で向かうことになったのであった。
「何かジメジメしててやだなぁ。」
追従する部下たちも、男を乗せている4人の大男も長い山道に疲れ果てていた。そこへ、腕が翼になっている妖が空から舞い降りた。
「た、大変です、霊狼様!狼真様が捕らわれ、王狼城が陥落!群狼隊が敗北を認め、王狼街が滅豪隊に占領されました!!」
「!!?」
部下たちの間に動揺が広がる。そんな中、霊狼は高笑いする。
「ハハハハハハ!そうかそうか、父上が捕まったか!ならば今後王狼院は長男であるこの俺が当主としてやっていく事になるという事だな!ハッハッハ!!」
能天気な考えを披露する霊狼に、腕が翼の部下が静かに言う。
「いえ・・・王狼城にいた警備隊は全滅した模様で、群狼隊は敗北を認めて滅豪隊に投降、金狼・銀狼部隊は狼斗様の作戦中にほぼ全滅し、残った者たちは滅豪隊に捕縛されたようですので・・・。」
「それがどうした!王狼院の手の者は世界中にいるのだ!どこでも再興は可能だろう!」
「あの・・・私が今申し上げた者たち“だけ”が、真に王狼院に忠誠を誓った者たちですので・・・。」
腕が翼の部下が言い終える前に、4人の大男が担いでいた神輿を地に落とす。ドスンッ,と叩きつけられ、霊狼が喚く。
「痛ッ・・・!!貴様ら!誰が降ろしていいと言った!?」
そんな霊狼を4人の大男とスーツ姿の部下たち数十人が取り囲む。霊狼がかつて見たことのない、殺意に満ちた表情で。
狼斗を除く、王狼院狼真の息子たち他3名全員が霊狼と全く同じような結末を辿ったという。




