第279話:和神VS風蛇
雷蛇が抜刀した頃、和神の前に立ちはだかる風蛇もまた抜刀し、半妖態への変異を始めていた。その身を旋風が包み、頭部が銀の筋の入った蛇の形へと変わっていく。
「王狼院の連中にも金色した奴と銀色した奴がいるがな、奴らは何かの実験でああなってんだ・・・。いわば養殖だ。だが俺らは違うぜ?金と銀の体色と雷と風の力を持って生まれた、雷神と風神なんて呼ばれた事もあったっけなァ・・・。そんな2人の一角を相手取って、兄ちゃん、どうするよ?」
突然投げかけられた問いに、和神はあっけらかんと答える。
「どうするって・・・戦うんでしょ?」
「ハハッ!その通りだ!」
あまりにあっさりとした回答に笑う風蛇。しかしすぐに真顔に戻り、続ける。
兄ちゃん・・・おめェ、得体の知れねェ能力持ってるだろ?だが戦いはズブの素人だよなァ?」
「まぁ。」
話している間に風蛇の変異は完了した。
「その矛盾が面白ェと思ってなァ・・・!楽しませてもらうぜェ!?」
風蛇は狂気にも近い笑みを浮かべると、抜いた刀を構える。
“蛇風剣”
旋風が風蛇の刀を包むと、刀は湾曲し、雷蛇同様のショテル状に変異した。そして、風蛇が一瞬姿勢を低くしたかと思うと、和神に向かって蛇行するように突風が吹いた。
“蛇風下牙”
「!!」
和神が気付いた時には既に風蛇は和神の眼前で斬撃を放っていた。避ける間もない鋭い一太刀に和神は斬り上げられ、その後から追い打ちをかけるかのように牙の形をした逆巻く旋風がその身を上空へと突き上げる。斬られた箇所から鮮血を飛び散らせながら宙を舞う。そこへ、風蛇の追撃が襲い掛かる。
“蛇風上牙”
突風のように高速で目の前に現れた風蛇は、和神を床へ叩きつけるように刀を振り下ろした。今度は和神も咄嗟に腕に妖力を纏わせて防御態勢を取り、先ほどのような刀傷を負わずには済んだが、“蛇風下牙”同様に後から牙の形をした逆巻く旋風が、今回は上から襲ってきた。
バァン!!と和神は背中から床に叩きつけられた。
「グッ!」
叩きつけられる直前に背中に妖力を纏って衝撃を軽減していたが、風蛇の攻撃はまだ続いている。
“蛇風内舌”
蛇行する突風が迫ってくるのを察した和神は不知火を放つ。
“不知火壁”
白い炎の壁が展開された。風蛇は方向を変え、壁の横から回り込んで和神を直接狙うこともできた。だが、そうはしなかった。試してみたかったのである。警備隊の一斉掃射による弾幕を全て受け切っていたあの白い炎の壁に、自分の剣が通用するのか否か。
ボスッ,と、風を纏った風蛇の刀は壁に斬り込んだ。
(よし!)
心の中でほくそ笑む風蛇。
(!?)
しかし、すぐに刀を“不知火壁”から引き抜いた。風蛇の刀は“不知火壁”に斬り込ませた部分が溶解していた。
「馬鹿な・・・!俺の“蛇風剣”が・・・それも妖力で旋風も纏わせていたんだぞ!?」
驚きを隠せない風蛇の背後に、ドスン!と何かが落ちてきた。
「雷蛇・・・!?」
「あー・・・あの野郎中々やるぜ・・・。」
士狼に攻撃を受けた雷蛇が、全身に切り傷を負って落ちてきたのである。
「風蛇、そっちは?」
「こっちも中々だぜ・・・。」
2階から士狼が雷蛇の前に舞い降り、“不知火壁”の展開を止めた和神が風蛇の前に歩いてくる。まさに第2回戦が始まらんとしたその時であった。
「そこまでだ!」
女性の声が大広間にこだました。




